1さて、アンモンはこのようにして引き続きラモーナイの民を教えていたので、話をアロンと彼の同僚たちのことに戻そう。アロンはミドーナイの地を去った後、御霊によってニーファイの地へ導かれ、王の宮殿に行った。この王は、イシマエルの地を除く全地を治めている王であり、ラモーナイの父であった。
2そこでアロンは、彼の同僚たちとともに王の宮殿に入り、王のもとに進み出て、王の前にひれ伏して言った。「まことに、王様、わたしたちはアンモンの仲間であり、あなたに牢から救い出していただいた者であります。
3王様、わたしたちの命を助けてくださるならば、わたしたちは王様の僕になります。」すると王は彼らに言った。「立ちなさい。わたしはあなたがたの命を許そう。しかし、わたしの僕になることは認めない。その代わりに、わたしにぜひとも教えてもらいたい。あなたの兄弟アンモンの言葉が寛大であり、偉大であったので、わたしは少々心に思い悩んでいることがある。また、アンモンがあなたとともにミドーナイから上って来なかった理由も知りたい。」
4そこでアロンは王に、「まことに、主の御霊が彼をほかの場所へ呼ばれたのです。彼はラモーナイの民を教えるために、イシマエルの地へ行きました」と言った。
5すると、王は彼に言った。「あなたは主の御霊について語っているが、それはどういうことなのか。見よ、わたしが思い悩んでいるのはそのことである。
6アンモンは、『悔い改めるならば救われるが、悔い改めなければ終わりの日に捨てられる』と言ったが、それはどういうことなのか。」
7そこでアロンは王に答えて、「王様は神がましますことを信じておられますか」と言った。すると、王は、「アマレカイ人が神がいると言っているのは知っている。わたしは彼らが集まって神を礼拝することができるように、幾つかの聖堂を建てることを彼らに許してきた。だから、今あなたが神はましますと言うならば、見よ、わたしは信じよう」と答えた。
8さて、アロンはこれを聞いて心に喜びを覚え、「王様、まことに、あなたが今生きておられるように確かに、神はまします」と言った。
9すると王は、「神とは、我らの先祖をエルサレムの地から導き出したあの大霊のことか」と尋ねた。
10そこでアロンは王に、「そのとおりです。神とはあの大霊のことです。神は天と地の両方で万物を創造されました。王様はこのことをお信じになりますか」と言った。
11すると、王は答えた。「まことに、わたしは信じる。わたしは大霊が万物を創造されたことを信じる。だから、これらすべてのことについてわたしに話してほしい。わたしはあなたの言葉を信じよう。」
12そこでアロンは、王が自分の言葉を信じようとするのを見て、聖文を王に読んで聞かせながら、アダムの造られたこと、すなわち神が御自分の形に人を創造されたことから始めて、神がアダムに戒めを与えられたことや、人が背きのために堕落したことを話して聞かせた。
13そしてアロンは、アダムが造られたことから始めて王に聖文を説き明かし、人が堕落したことと、人類のこの世の状態と、贖いの計画について話した。この贖いの計画は、キリストの名を信じようとするすべての人のために、キリストによって世の初めから備えられたものである。
14また人類は堕落したので、自分自身で何も良い報いを得ることはできなかった。しかし、信仰と悔い改めなどによって、キリストの苦しみと死が彼らの罪を贖うのである。そして、キリストは死の縄目を断ち、墓は勝利を得ず、死のとげは栄光の望みの中にのみ込まれてしまう。アロンはこれらのことをすべて王に説き明かした。
15さて、アロンがこれらのことを王に説き明かした後、王は言った。「あなたの語ったこの永遠の命を得るには、わたしは何をすればよいのか。まことに、わたしは何をすれば、この悪い霊をわたしの胸からことごとく取り除いて、神から生まれ、神の御霊を受けて、喜びに満たされ、終わりの日に捨てられなくて済むのか。見よ、この大きな喜びを得るために、わたしは持ち物をすべて捨てよう。まことに、王位も譲ろう。」
16しかし、アロンは王に言った。「あなたがこのことを願い、神の御前にひれ伏すならば、まことに、あなたの罪をすべて悔い改め、神の御前にひれ伏して、与えられると信じて信仰をもって神の御名を呼ぶならば、そのときあなたは、今願っているものを得るでしょう。」
17そして、アロンがこれらの言葉を語ると、王はひざまずいて主の前にひれ伏した。まことに、王は地に平伏し、熱烈に叫び求めた。
18「おお、神よ、アロンは、あなたがましますことをわたしに告げました。もしも神がましますならば、そしてあなたがその神であられるならば、あなた御自身のことをわたしにお知らせください。わたしはあなたを知り、死者の中からよみがえり、終わりの日に救われるように、自分の罪をすべて捨てます。」王はこれらの言葉を語り終えると、打たれて死んだようになった。
19さて、王の僕たちが走って行って、王の身に起こったことをすべて王妃に知らせたので、王妃は王のもとに来た。そして、死んだように横たわっている王と、張本人であるかのように立っているアロンと彼の同僚たちを見て、王妃は彼らに怒りを発し、自分の僕たち、いや王の僕たちに、彼らを捕らえて殺すように命じた。
20ところが僕たちは、王が倒れた訳を知っていたので、アロンと彼の同僚たちにあえて手をかけようとせず、王妃に懇願して言った。「どうしてこの人々を殺すようにお命じになるのですか。まことに、この人々の一人は、わたしたち全員よりも強いのです。わたしたちはこの人々の前で倒れてしまうでしょう。」
21すると王妃は、僕たちが恐れているのを見て、自分に何か災いが及ぶかもしれないと思い、非常に恐れ始めた。そして、自分の僕たちに、行って人々を呼び集め、アロンと彼の同僚たちを殺させるように命じた。
22さて、アロンは王妃の決意を知ると、人々の心がかたくなであるのも知っていたので、大勢の人が集まって、彼らの中にひどい争いと騒動が起こるのではないかと心配した。そこで彼は、手を差し伸べて王を地から起こし、「立ちなさい」と言った。すると、王は力を得て立ち上がった。
23さて、このことは王妃と多くの僕たちの前で行われた。そこで彼らは、それを見ると非常に驚き、恐れた。すると、王は前に進み出て、彼らを教え始めた。そして、王が彼らを教えたので、王の家のすべての者が主に帰依した。
24ところが、すでに王妃が命令を出していたので、大勢の人が集まって来た。そして彼らは、アロンと彼の同僚たちのことでひどくつぶやき始めた。
25しかし、王が出て行って彼らの中に立ち、彼らを教えたので、彼らはアロンと、また彼と一緒にいた人々に対して心を和らげた。
26そして王は、人々が心を和らげたのを見ると、アロンと彼の同僚たちを群衆の中に行かせて立たせ、彼らに御言葉を宣べ伝えさせた。
27そして王は全地に、すなわち自分の国内にいるすべての民と、その周辺の全地方にいるすべての民に布告を出した。この国は東と西で海に接しており、またゼラヘムラの地とは、東の海から西の海まで続いている細長い荒れ野で隔てられていた。また、この荒れ野は海岸線で湾曲しており、その北方の境はゼラヘムラの地からマンタイの境を通り、また東から西に流れるシドン川の源まで達していた。レーマン人とニーファイ人はこのようにして分かれていた。
28さて、レーマン人の中でさらに怠惰な者たちは荒れ野にいて、天幕に住んでいた。彼らはニーファイの地に含まれる西方の荒れ野全体に広く住んでおり、また、ゼラヘムラの地の西方の海岸に近い境の地付近にも、さらには、ニーファイの地の西方の、彼らの先祖が最初受け継ぎの地とした所にも住んでいた。このように、彼らは海沿いの境の地に住んでいた。
29また、東方の海岸近くにも多くのレーマン人がいた。彼らはニーファイ人によってそこに追い込まれたのである。このように、ニーファイ人はほとんどレーマン人に囲まれていた。それでも、ニーファイ人はシドン川の源で荒れ野に接する地の北部全体を所有してきた。その地は東から西まで荒れ野に沿っており、北方は彼らがバウンティフルと名付けた地まで達していた。
30バウンティフルの地は、ニーファイ人がデソレションと名付けた地に接していた。そのデソレションの地ははるか北方にあって、かつて人々が住んでいたが今はもう滅びてしまい、前に述べたようにゼラヘムラの民がその人々の骨を発見した地である。またそこは、ゼラヘムラの民が最初に上陸した所でもある。
31彼らはそこから南の荒れ野へ上って来た。このようにして、北方の地はデソレションと呼ばれ、南方の地は、あらゆる野生動物で満ちている荒れ野があったので、バウンティフルと呼ばれた。その野生動物の一部は、食べ物を求めて北方の地から来たものであった。
32さて、東の海から西の海までは、バウンティフルとデソレションの地の境界線上をニーファイ人が一日半旅をすれば行けるわずかな距離であった。このように、ニーファイの地とゼラヘムラの地はほとんど海に囲まれており、北方の地と南方の地の間には小さい地峡があった。
33そしてニーファイ人は、東の海から西の海に至るまでバウンティフルの地に住んでいた。このように、ニーファイ人は賢明に彼らの見張りの兵と軍隊をもってレーマン人を南方に閉ざし、レーマン人が北方に領土を持って北方の地で増え広がることのないようにした。
34そのためにレーマン人は、ニーファイの地と周辺の荒れ野の中にしか領土を持てなかった。これはニーファイ人の知恵であった。レーマン人は彼らの敵であったので、彼らはあらゆる方面で苦難を受けることのないようにし、またどこへでも思うままに逃げて行く先を確保できるようにしたのである。
35さて、このことはこれで終わりとし、再びアンモンとアロン、オムナーとヒムナイ、および彼らの同僚たちの話に戻ることにする。