1さて、さばきつかさの統治第三十年の初め、一月二日にモロナイはヒラマンから手紙を受け取ったが、それには彼がいる地方の民に関する事柄が述べられていた。
2ヒラマンが書いた言葉は次のとおりである。「戦時の艱難の中にあっても、主にあっても兄弟である、わたしの心から深く愛する兄弟、モロナイ殿。まことに、愛する兄弟、わたしはこの地方の戦況について少々お知らせしておきたいと思います。
3まことに、それは、アンモンがニーファイの地から連れて来た人々の息子たち二千人のことについてです。御存じのように、アンモンが連れて来たこれらの人々は、わたしたちの先祖リーハイの長男であるレーマンの子孫です。
4わたしがあなたに彼らの言い伝えや不信仰について事細かに述べるまでもなく、あなたはこれらのことをすべて御存じです。
5ですから、この二千人の青年たちが武器を取り、わたしに彼らの指揮官になるように望んだこと、そしてわたしたちが自分の国を守るために出て行ったこと、これらのことだけあなたに申し上げれば十分です。
6そして、あなたはまた、彼らの先祖が交わした、同胞に対して武器を取って血を流すことはしないという聖約についても御存じです。
7しかし、第二十六年に、彼らはわたしたちが彼らのために苦難と艱難に陥っているのを見て、わたしたちを援護するために、彼らが以前に交わした聖約を破って武器を取ろうとしました。
8しかし、わたしは神がわたしたちを強くしてくださるので、彼らが自分たちの立てた誓いを守るならばわたしたちはそれ以上苦しみを受けないであろうと思い、彼らが以前に交わしたこの聖約を破ることを認めませんでした。
9しかしまことに、わたしたちにとって非常にうれしいことが一つあります。まことに、第二十六年に、わたしヒラマンはこの二千人の青年たちを率いて、アンテプスを助けるためにユダヤの町へ進軍しました。このアンテプスは、あなたがその地の民の指揮官に任命した人です。
10そしてわたしは、アンテプスの軍隊にわたしの二千人の息子たち(彼らは息子と呼ばれるにふさわしい人々です)を加えたので、アンテプスはその兵力を非常に喜びました。というのは、まことにレーマン人の軍隊によっておびただしい数の兵が殺され、彼の軍隊の兵の数が減っていたからです。このように大勢の人が殺されたことを、わたしたちは嘆き悲しまないではいられません。
11にもかかわらず、わたしたちは、彼らが自分たちの国と神のために死んで、今幸せな状態にあるということで、自らを慰めることができます。
12レーマン人はまた多くの捕虜を残しており、その全員が連隊長です。彼らはほかの者をだれ一人生かしておかなかったからです。彼らは今ニーファイの地にいると思います。殺されていなければそこにいます。
13レーマン人が、そのように多くのわたしたちの勇敢な兵たちの血を流して支配権を得た町は、次のとおりです。
14マンタイの地、すなわちマンタイの町、ゼーズロムの町、クメナイの町、アンテパラの町。
15以上は、わたしがユダヤの町に着いたときにレーマン人が占領していた町です。またわたしは、アンテプスとその兵がユダヤの町の防備を固めるのに力を尽くしているのを見ました。
16そして彼らは、町を守り抜くために昼は勇ましく戦い、夜は夜で苦労を重ねていたので、肉体も精神も疲れ切っていました。彼らはこのように、ありとあらゆるひどい苦難に耐えてきました。
17また彼らは、この地で勝利を得るか、そうでなければ死のうと決意していたので、あなたにも十分に想像がつくと思いますが、わたしが連れて来たこの小さな軍隊、すなわちわたしの息子たちは、彼らに大きな希望と大きな喜びを与えました。
18さて、レーマン人は、アンテプスが軍隊に援兵を得たのを知ると、アモロンの命令で、戦闘のためにユダヤの町に来るのを、すなわちわたしたちを攻めるのを禁じられました。
19このようにして、わたしたちは主の恵みを受けました。というのは、もし彼らがこの弱い状態にあるわたしたちに攻め寄せていたら、わたしたちの小さな軍隊は恐らく滅ぼされていたことでしょう。しかし、このようにしてわたしたちは守られたのです。
20彼らは、それまでに奪ってきた町を守るようにアモロンから命じられたのです。このようにして、第二十六年が終わりました。第二十七年の初めに、わたしたちは自分たちの町と自分自身を守る準備を終えました。
21そしてわたしたちは、レーマン人が攻めて来てくれることを願いました。わたしたちは、とりでにこもっている彼らを攻撃することを望まなかったからです。
22そして、レーマン人が夜に紛れて、あるいは日中にでも、わたしたちのもとを通り過ぎて北方にあるほかの町に攻撃を加えるようなことがないよう、わたしたちはレーマン人の動きを見張るために方々に密偵を置きました。
23北方にあるそれらの町の人々には、レーマン人と交戦できるほどの力がないことをわたしは知っていたからです。したがって、もしレーマン人がそばを通り過ぎるようであれば、彼らを背後から攻めて、正面からの交戦と同時に、背後からも彼らを攻めたいと思っていました。そうすれば彼らを打ち負かせると思ったのですが、まことに、この望みはくじかれてしまいました。
24彼らは、あえて全軍でわたしたちのそばを通り過ぎようとはせず、また軍隊の一部でも、力が足りなくて負けるのを心配して通り過ぎようとしませんでした。
25また彼らは、あえてゼラヘムラの町に対して進軍することも、またシドンの源を越えてニーファイハの町へ向かうこともしませんでした。
26このように彼らは、以前に奪ったそれらの町を自分たちの軍隊で守ろうと決意していたのです。
27さて、この年の二月に、わたしの二千人の息子たちの父親から多くの食糧がわたしたちのもとに届きました。
28さらに、ゼラヘムラの地からわたしたちのもとに、二千人の兵も送られてきました。このようにして、わたしたちには一万人の兵と、この兵たちとその妻子たちのための食糧が備わりました。
29レーマン人は、このようにわたしたちの軍隊が日々増大し、またわたしたちの支えである食糧が届くのを見て恐れ始め、できればわたしたちにもう食糧と兵力を得させないようにしようということで、出撃して来るようになりました。
30わたしたちは、レーマン人がこのように次第に不安になり始めたのを知ると、彼らに一つの策を講じたいと思いました。そこでアンテプスの命を受け、わたしはあたかも食糧を運んでいるところであるかのように、若い息子たちとともに近隣のある町へ出かけて行くことになりました。
31わたしたちはアンテパラの町の近くを、あたかも海岸に近い地方にあるその先の町へ向かっているかのように進むことになりました。
32そして、食糧を運んでその町へ向かっているかのように進軍しました。
33そしてアンテプスも、町を守るために彼の軍隊の一部を残し、残りの兵とともに進軍しました。しかし、わたしが自分の若い軍隊とともにアンテパラの町に近づくまで、彼は進軍しませんでした。
34アンテパラの町には、レーマン人の最強の軍隊が最大の規模で配備されていました。
35さて彼らは、密偵から知らせを受けると、軍隊を出し、わたしたちに向かって進んで来ました。
36そこでわたしたちは、彼らの前を北方へ逃げました。このようにしてわたしたちは、レーマン人の最も強い軍隊を連れ出したのです。
37まことに、かなり遠くまで連れ出しました。彼らは、アンテプスの軍隊が全力で追って来るのを知ると、右にも左にも曲がらず、まっすぐにわたしたちを追って来ました。今思うに、彼らはアンテプスに追いつかれる前にわたしたちを殺し、わたしたちの民に取り囲まれることのないようにしようと考えたようです。
38アンテプスは、わたしたちが危ういのを見て、行軍の速度を増しましたが、しかしまことに、夜になってしまいました。そのため、レーマン人はわたしたちに追いつかず、アンテプスもレーマン人に追いつかなかったので、わたしたちは夜の間野営しました。
39そして、夜明け前に、まことに、レーマン人はわたしたちを追って来ました。しかしわたしたちは、彼らと戦えるほど強くなく、またわたしは若い息子たちを彼らの手に落としたくないと思ったので、そのまま行軍を続け、荒れ野へ向かいました。
40レーマン人は取り囲まれることを恐れて、あえて右にも左にも曲がらず、わたしも彼らに追いつかれるのを恐れて、右にも左にも曲がりませんでした。わたしたちは追いつかれれば抵抗できず彼らに殺され、彼らは逃れていたことでしょう。したがって、暗くなるまで、わたしたちは一日中荒れ野の中を逃げました。
41そして、また翌日夜が明けると、わたしたちはレーマン人が追って来るのを見て、彼らの前から逃げました。
42ところが、彼らはわたしたちを遠く追わないうちに立ち止まりました。それは七月三日の朝のことでした。
43わたしたちには、アンテプスが彼らに追いついたのかどうか分かりませんでしたが、わたしは兵たちに言いました。『見よ、彼らは我々に攻撃をさせ、我々をわなにかけて捕らえるために止まったのかもしれない。
44したがって、わたしの息子たちよ、あなたがたはどうだろうか。彼らと戦うつもりがあるか。』
45愛する兄弟、モロナイ殿。わたしは申し上げます。わたしはこれまでこのような大いなる勇気を一度も見たことがありません。ニーファイ人の中にはないことでした。
46わたしがいつも彼らを(皆、非常に若かったので)わたしの息子たちと呼んできたように、彼らもわたしに、『父よ、まことに、神はわたしたちとともにいて、わたしたちが敗れることのないようにしてくださいます。ですから、出て行きましょう。もしわたしたちの同胞が仕掛けてこなければ、わたしたちは彼らを殺しません。彼らがアンテプスの軍隊を打ち負かすことのないように、わたしたちは行きましょう』と言いました。
47彼らはまだ一度も戦ったことがありませんでしたが、死を恐れませんでした。そして彼らは、自分の命よりも父親たちの自由のことを考えていました。彼らは母親から、疑わなければ神が救ってくださると教わっていたのです。
48そして彼らは、わたしに母親たちの言葉を告げて、『わたしたちは、母たちがそれを知っていたことを疑いません』と言いました。
49そこで、わたしたちを追って来たレーマン人と戦うために、わたしは二千人の兵とともに引き返しました。するとまことに、アンテプスの軍隊が彼らに襲いかかり、激しい戦いが始まっていました。
50しかも、アンテプスの軍隊はそのようなわずかな日時で長い道のりを進んだことで疲れており、まさにレーマン人の手に落ちようとしていたところでした。もしわたしが二千人の兵とともに引き返さなければ、レーマン人は彼らの目的を達していたことでしょう。
51アンテプスと彼の指揮官たちの多くが、行軍が速かったために疲れ果てて、すでに剣に倒れていたからです。そしてアンテプスの兵たちは、指揮官たちが倒れたことでうろたえ、レーマン人の前から退却を始めました。
52そこでレーマン人は勇み立ち、彼らを追撃し始めました。このように、レーマン人が激しい勢いで彼らを追撃していたときに、ヒラマンが二千人の兵とともにレーマン人の背後から攻めかかり、彼らを大いに殺し始めたのです。そこでレーマン人の全軍は立ち止まって、今度はヒラマンに向かいました。
53するとアンテプスの民は、レーマン人が向きを転じたのを見て自分たちの兵を集め、再びレーマン人の背後を攻めました。
54そして、わたしたちニーファイの民、すなわちアンテプスの民とわたしとわたしの二千人の兵がレーマン人を取り囲み、彼らを殺したので、彼らは仕方なく武器を引き渡し、捕虜となりました。
55さて、彼らがわたしたちに降伏したので、まことに、わたしはともに戦ってきた青年たちが大勢殺されたのではないかと心配になり、彼らの人数を数えました。
56ところがまことに、非常にうれしいことに、彼らの中で地に倒れた者は一人もいませんでした。彼らはまるで神の力を得たかのように戦いました。このように奇跡的な力で戦った人はこれまでに一人もいません。彼らはレーマン人が肝をつぶすほどの大いなる力で彼らに攻めかかり、そのために、レーマン人は降伏して捕虜になりました。
57また、そこには捕虜をレーマン人の軍隊から遠ざけて見張っておける場所がなかったので、わたしたちは殺されなかったアンテプスの兵の一部を付けて、彼らをゼラヘムラの地に送りました。そして、残りの兵はわたしが率いて若いアンモン人に加え、ユダヤの町に引き返しました。」