1 さて,モロナイの兵は戦うのをやめて,レーマン人から一歩退いた。そこで,モロナイはゼラヘムナに言った。「見よ,ゼラヘムナよ,我々は血を流す者にはなりたくない。おまえたちにも分かるとおり,おまえたちは我々の手の中にある。しかし,我々はおまえたちを殺したくない。
2 見よ,我々がおまえたちと戦うためにやって来たのは,おまえたちの血を流して権力を得るためでは決してない。また,だれかに奴隷のくびきをかけたいと思っているためでもない。しかし,おまえたちが我々を攻めて来たのは,まさにこのためである。そのうえ,おまえたちは我々の宗教のことで我々に腹を立てている。
3 しかし,おまえたちの見るとおり,主は我々とともにおられる。おまえたちの見るとおり,主はおまえたちを我々の手に渡された。主が我々にこうしてくださったのは,我々の宗教とキリストを信じる我々の信仰のためであることを知ってもらいたい。また,おまえたちの見るとおり,おまえたちはこの我々の信仰を打ち砕くことはできない。
4 おまえたちの見るとおり,これは神のまことの信仰である。まことに,おまえたちの見るとおり,我々が神と自分の信仰と宗教に忠実であるかぎり,神は我々を支え,保ち,守ってくださる。また,我々が戒めに背いて自分の信仰を否定するようなことがなければ,主は我々が滅ぼされるのを決してそのままにしておかれない。
5 ゼラヘムナよ,我々の腕を強くしておまえたちを打ち負かす力を得させてくださったあの全能の神の御名によって,また我々の信仰,宗教,礼拝の儀式,教会にかけて,妻子を養う神聖な務めにかけて,我々の国土に愛着を起こさせる自由にかけて,我々のあらゆる幸福の源である神の神聖な御言葉を守る行為にかけて,また我々にとって非常に大切なすべてのものにかけて,わたしはおまえに命じる。
6 それだけではない。おまえたちが生き延びたいと思っている望みにかけて,おまえに命じる。我々に武器を引き渡せ。そうすれば,我々はおまえたちの血を求めない。もしおまえたちが去って,再び攻めて来ないというのであれば,命を助けてやろう。
7 しかし,もしそうしないのであれば,見よ,おまえたちは我々の手の中にあるので,わたしは兵に命じて攻撃させ,おまえたちの身に致命傷を負わせて全滅させよう。そのときに,我々のどちらがこの民を治める権力を持ち,どちらが奴隷になるかが分かるであろう。」
8 さて,ゼラヘムナはこれらの言葉を聞くと,前に進み出て,剣と三日月刀と弓をモロナイの手に渡して言った。「見よ,我々の武器はこのとおりおまえたちに渡そう。しかし,将来我々も子孫も破ると分かっている誓いについては,これをおまえたちに立てることはできない。だが,武器を受け取り,我々を荒れ野へ去らせてくれ。さもなければ,我々は自分の剣を渡さずに,滅びるか勝利を得るか決するまで戦い続ける。
9 見よ,我々は,おまえたちと同じ信仰を持ってはいない。神が我々をおまえたちの手に渡したなどとは信じない。我々は,おまえたちを我々の剣から守ったのはおまえたちの悪知恵であると思っている。見よ,おまえたちを守ったのは胸当てと盾だ。」
10 ゼラヘムナがこれらの言葉を語り終えると,モロナイは受け取った剣と武器をゼラヘムナに返して言った。「さあ,戦いの決着をつけよう。
11 わたしはすでに語った言葉を取り消すことができないので,主が生きておられるように,二度と我々のもとに戻って来て戦わないと誓って去るのでなければ,おまえたちを去らせるわけにはいかない。おまえたちは我々の手の中にあるので,我々はおまえたちの血を地上に流そう。それが嫌ならば,おまえたちはわたしの告げた条件に従え。」
12 モロナイがこれらの言葉を述べると,ゼラヘムナは剣を取った。そして,モロナイのことを怒り,モロナイを殺そうとして駆け寄った。しかし,ゼラヘムナが剣を振り上げたとき,見よ,モロナイの兵の一人がそれを地にたたき落とした。すると,それは柄のところで折れてしまった。その兵はまた,ゼラヘムナを打って彼の頭の皮をはぎ,それを地に落とした。そこでゼラヘムナは,自分の兵の中に逃げ込んでしまった。
13 そして,傍らに立っていたゼラヘムナの頭の皮をはぎ取った兵は,その頭皮を,髪をつかんで地から拾い上げ,剣の先に引っかけてレーマン人の方に差し伸べ,大声で彼らに言った。
14 「おまえたちが武器を引き渡して平和の誓いを立てて去らなければ,おまえたちの指揮官のこの頭の皮が地に落ちたように,おまえたちも地に倒れることになるだろう。」
15 レーマン人はこの言葉を聞き,剣にかけられている頭の皮を見て,多くの者が恐れをなした。そして,多くの者が進み出て,モロナイの足もとに武器を投げ出し,平和の誓いを立てた。そして,誓いを立てた者は皆,荒れ野へ立ち去ることを許された。
16 そこで,ゼラヘムナは非常に怒り,残った兵たちをそそのかして怒らせ,前よりもさらに激しくニーファイ人と戦わせた。
17 そして,モロナイもレーマン人が強情であることを怒って,彼らを攻めて殺すように民に命じた。そこで,彼の民はレーマン人を殺し始め,レーマン人も剣を振るい,力を尽くして応戦した。
18 しかし見よ,レーマン人は,むき出しの肌と覆いのない頭をニーファイ人の鋭い剣にさらしており,まことに見よ,彼らは刺し貫かれ,討たれて,ニーファイ人の剣の前で見る間に倒れていった。そして,モロナイの兵が預言したように,彼らは一掃され始めた。
19 するとゼラヘムナは,彼らが皆殺しにされてしまいそうなのを見て,モロナイに必死に叫び求めて,残った者の命を助けてくれるならば自分も部下も二度と攻めて来ないと誓うことを約束した。
20 そこでモロナイは,再び殺すのをやめさせ,レーマン人から武器を取り上げた。こうしてレーマン人は,モロナイと平和の誓いを立てた後,荒れ野へ立ち去ることを許された。
21 両軍の死者は多数に及んだために数えられなかった。死者の数はニーファイ人側でもレーマン人側でも非常に多かった。
22 そこで彼らは死体をシドンの水に投げ込み,死体は流れて行って海の深みに葬られた。
23 その後,ニーファイ人の軍隊,すなわちモロナイの軍隊は引き揚げ,自分たちの家と土地へ帰って行った。
24 このようにして,ニーファイの民のさばきつかさの統治第十八年が終わった。これでニーファイの版に書き記されていたアルマの記録は終わった。