アルマ書しょ
アルマの息むす子こアルマの書しょ

1 さて，モーサヤ王おうは善ぜんの戦たたかいに従じゅう事じし，神かみの前まえをまっすぐに歩あゆみ，自じ分ぶんに代かわって統とう治ちする者ものをだれも残のこすことなく，世よのすべての人ひとの行いく道みちを行いったが，世よを去さる前まえに法ほう律りつを制せい定ていし，民たみがそれを承しょう認にんした。したがって，ニーファイの民たみを治おさめるさばきつかさの統とう治ちの第だい一年ねん以い降こう，民たみはモーサヤ王おうの定さだめた法ほう律りつに従したがわなければならなかった。

2 さて，アルマがさばきつかさの職しょくに就ついて治おさめた最さい初しょの年としに，裁さい判ばんを受うけるために，彼かれの前まえに連つれ出だされた一人ひとりの男おとこがいた。その男おとこは体からだが大おおきく，力ちからが強つよいことで名な高だかかった。

3 彼かれは人ひと々びとの中なかを巡めぐり歩あるいて，自じ分ぶんで神かみの言こと葉ばと称しょうしたことを彼かれらに宣のべ伝つたえ，教きょう会かいに圧あっ迫ぱくを加くわえ，また，祭さい司しと教きょう師しは皆みな，人じん望ぼうを得えるはずであって，自じ分ぶんの手てで働はたらく必ひつ要ようはなく，人ひと々びとによって生せい活かつを支ささえられて当とう然ぜんであると宣せん言げんした。

4 彼かれはまた，全ぜん人じん類るいは終おわりの日ひに救すくわれるので，人ひとは恐おそれる必ひつ要ようもおののく必ひつ要ようもない，むしろ頭あたまを上あげて喜よろこぶがよい，主しゅがすべての人ひとを造つくられ，すでにすべての人ひとを贖あがなっておられ，結けっ局きょくすべての人ひとが永えい遠えんの命いのちを得えるからであると，人ひと々びとに公こう言げんした。

5 さて，彼かれはこれらのことを多おおく教おしえたので，多おおくの者ものが彼かれの言こと葉ばを信しんじ，彼かれの生せい活かつを支ささえ，金きん銭せんを彼かれに贈おくるようになった。

6 そこで彼かれは，高こう慢まんな心こころで高たかぶり始はじめ，非ひ常じょうに高こう価かな衣い服ふくを身みに着つけるようになり，自じ分ぶんの説とき教おしえることにかなう教きょう会かいを設せつ立りつするようにさえなった。

7 そして彼かれは，自じ分ぶんの言こと葉ばを信しんじる者ものたちに説せっ教きょうするために出でかけて行いく途と中ちゅうで，神かみの教きょう会かいに属ぞくする者もの，すなわち教きょう会かいの教きょう師しの一人ひとりに出で会あった。そこで彼かれはその人ひとと激はげしく論ろん争そうし，教きょう会かいの人ひと々びとを惑まどわそうとした。しかし，その人ひとは彼かれに反はん論ろんし，神かみの言こと葉ばをもって彼かれを諭さとした。

8 さて，その人ひとの名なはギデオンという。かつて，神かみの手てに使つかわれる者ものとなって，リムハイの民たみを奴ど隷れいの状じょう態たいから救すくい出だした人ひとである。

9 さて，ギデオンが神かみの言こと葉ばをもって彼かれに反はん論ろんしたので，彼かれはギデオンに対たいして腹はらを立たて，剣つるぎを抜ぬいてギデオンに打うちかかった。ところが，ギデオンは年としを取とっていたので，その男おとこが切きりかかってくるのに抗こうすることができず，剣つるぎによって殺ころされてしまった。

10 それで，ギデオンを殺ころしたその男おとこは教きょう会かいの人ひと々びとに捕とらえられて，アルマの前まえに連つれて行いかれ，彼かれの犯おかした罪ざい科かに従したがって裁さい判ばんされることになった。

11 そこで彼かれは，アルマの前まえに立たつと非ひ常じょうに大だい胆たんに自じ己こ弁べん護ごをした。

12 しかし，アルマは彼かれに言いった。「見みよ，この民たみの中なかで偽ぎ善ぜん売ばい教きょうが起おこったのは，これが初はじめてである。見みよ，あなたは偽ぎ善ぜん売ばい教きょうの罪つみを犯おかしただけでなく，剣つるぎによってそれを強きょう要ようしようとした。この民たみの中なかで偽ぎ善ぜん売ばい教きょうが行おこなわれれば，民たみは完かん全ぜんに滅ほろびてしまうであろう。

13 また，あなたは義ぎ人じん，まことに，この民たみの中なかで多おおくの善ぜんを行おこなってきた人ひとの血ちを流ながしたので，もしわたしたちがあなたを赦ゆるしたならば，彼かれの血ちが報ほう復ふくを求もとめてわたしたちに降ふりかかるであろう。

14 したがって，わたしたちの最さい後ごの王おうモーサヤから与あたえられた法ほう律りつにより，あなたに死し刑けいを宣せん告こくする。この法ほう律りつはこの民たみによって承しょう認にんされたものであるから，この民たみはこの法ほう律りつに従したがわなければならない。」

15 そして，人ひと々びとは彼かれを捕とらえた。彼かれの名なはニーホルといった。そして人ひと々びとは，彼かれをマンタイの丘おかの頂ちょう上じょうに運はこんで行いった。そこにおいて彼かれは，自じ分ぶんが民たみに教おしえてきたことが神かみの言こと葉ばに反はんするものであったことを，天てん地ちの間あいだで白はく状じょうさせられた，いや，自じ分ぶんから認みとめた。そして，彼かれは不ふ名めい誉よな最さい期ごを遂とげた。

16 にもかかわらず，偽ぎ善ぜん売ばい教きょうが国くに中じゅうに広ひろまるのはやまなかった。俗ぞく世せのむなしいものを非ひ常じょうに好このむ者ものが大おお勢ぜいいたからである。彼かれらは出でて行いって偽いつわりの教きょう義ぎを宣のべ伝つたえた。富とみと誉ほまれを得えようとして，このように行おこなったのであった。

17 それでも，偽いつわりを言いう者ものは罰ばっせられるので，彼かれらは法ほう律りつを恐おそれて，あえて公こう然ぜんとは偽いつわりを言いわなかった。それで，自じ分ぶんの信しん条じょうに従したがって教おしえを説といているふりをした。法ほう律りつは，人ひとの信しん条じょうについては，だれをも罰ばっする力ちからを持もたなかったからである。

18 また，盗ぬすみを働はたらく者ものは罰ばっせられるので，彼かれらは法ほう律りつを恐おそれて，あえて盗ぬすみをしなかった。彼かれらは奪うばい取とることもしなかったし，人ひとも殺ころさなかった。人ひとを殺ころす者ものは死し刑けいに処しょせられたからである。

19 しかし，神かみの教きょう会かいに加くわわっていない者ものたちは，神かみの教きょう会かいに属ぞくしてキリストの名なを受うけた人ひと々びとを迫はく害がいし始はじめた。

20 まことに彼かれらは，神かみの教きょう会かいに属ぞくする人ひと々びとを迫はく害がいし，あらゆる言こと葉ばで苦くるしめ悩なやました。これは，教きょう会かいの人ひと々びとが謙けん遜そんであり，彼かれらの目めに高たかぶりがなく，また金かねを出ださず，代だい価かを払はらわないで，互たがいに神かみの言こと葉ばを教おしえ合あっていたからである。

21 さて，教きょう会かいの人ひと々びとの中なかには厳きびしい律りっ法ぽうがあり，教きょう会かいに属ぞくしている人ひとは，教きょう会かいに属ぞくしていない人ひとを苦くるしめてはならない，また互たがいに苦くるしめ合あってはならないとされていた。

22 にもかかわらず，彼かれらの中なかには高たかぶり，相あい手てと激はげしく論ろん争そうして殴なぐり合あいさえするようになった者ものが大おお勢ぜいいた。まことに，彼かれらは互たがいにこぶしで殴なぐり合あった。

23 さて，これはアルマの統とう治ち第だい二年ねんにあったことで，教きょう会かいがひどい苦くるしみに遭あう原げん因いんとなり，まことに，ひどい試し練れんを受うける原げん因いんとなった。

24 それは，多おおくの者ものの心こころがかたくなであったからである。そして，これらの者ものの名なが消けされたため，彼かれらはもはや神かみの民たみの中なかで思おもい出だされることはなかった。また，多おおくの者ものが自みずから神かみの民たみのもとを去さった。

25 さて，これは信しん仰こうにしっかりと立たっている人ひと々びとにとって大おおきな試し練れんであった。にもかかわらず，彼かれらは確かっ固ことして動うごかずに神かみの戒いましめを守まもり，また自じ分ぶんたちに加くわえられる迫はく害がいに辛しん抱ぼう強づよく耐たえた。

26 そして祭さい司したちが，神かみの言こと葉ばを民たみに告つげるために仕し事ごとを休やすめば，民たみもまた神かみの言こと葉ばを聞きくために仕し事ごとを休やすんだ。そして，祭さい司したちが彼かれらに神かみの言こと葉ばを告つげ終おえると，彼かれらは皆みな，再ふたたび自じ分ぶんたちの仕し事ごとに戻もどり，熱ねっ心しんに働はたらいた。教おしえを説とく者ものは聞きく者ものよりも偉えらいわけではなく，教おしえる者ものは学まなぶ者ものよりも偉えらいわけではないので，祭さい司しは自じ分ぶん自じ身しんを自じ分ぶんの話はなしを聞きく者ものよりも優すぐれているとは思おもわなかった。このように，彼かれらは皆みな，平びょう等どうであった。そして，彼かれらは皆みな，各おの々おの自じ分ぶんの力ちからに応おうじて働はたらいた。

27 また彼かれらは，各おの々おの自じ分ぶんの持もっている分ぶんに応おうじて，貧まずしい者ものや乏とぼしい者もの，病びょう気きの者もの，苦くるしんでいる者ものに自じ分ぶんの持もち物ものを分わけ与あたえた。彼かれらは高こう価かな衣い服ふくを身みに着つけてはいなかったが，その装よそおいはこざっぱりして麗うるわしかった。

28 このように，彼かれらは教きょう会かいの諸しょ事じを整ととのえた。また，あらゆる迫はく害がいにもかかわらず，彼かれらはまた引ひき続つづき平へい和わを保たもつようになった。

29 さて，教きょう会かい員いんは堅けん実じつであったので，非ひ常じょうに物もの持もちになり，自じ分ぶんたちが必ひつ要ようとしたすべてのものを豊ゆたかに持もつようになった。すなわち，大だい小しょうの家か畜ちくの群むれや，あらゆる若わかい肥こえた家か畜ちく，それに穀こく物もつや金きんや銀ぎんや貴き重ちょうな品しな々じな，また絹きぬや，より糸いとで織おった亜あ麻ま布ぬの，あらゆる丈じょう夫ぶで素そ朴ぼくな織おり物もの，これらのものを豊ゆたかに持もつようになった。

30 このようにして，彼かれらは裕ゆう福ふくな暮くらしの中なかで，着きる物もののない者ものや飢うえている者もの，渇かわいている者もの，病びょう気きの者もの，栄えい養ようの足たりない者ものを追おい払はらうことがなかった。また，彼かれらは富とみに執しゅう着ちゃくすることもなかった。そのため，老おいた者ものにも若わかい者ものにも，束そく縛ばくされた者ものにも自じ由ゆうな者ものにも，男おとこにも女おんなにも，また教きょう会かい員いんであるなしの区く別べつなく，助たすけの必ひつ要ような人ひと々びとについては人ひとを偏かたより見みることなく，すべての人ひとに物ものを惜おしまなかった。

31 このように彼かれらは栄さかえ，教きょう会かいに属ぞくしていない者ものたちよりもはるかに裕ゆう福ふくになった。

32 それは，教きょう会かいに属ぞくしていない者ものが魔ま術じゅつや偶ぐう像ぞう礼れい拝はいにふけり，あるいは怠たい惰だに浸ひたり，また無む駄だ話ばなしやねたみや争あらそいにふけり，高こう価かな衣い服ふくを身みに着つけ，高こう慢まんな目めで高たかぶり，迫はく害がいし，さらには偽いつわりを言いい，盗ぬすみ，強ごう盗とうをし，みだらな行おこないをし，人ひとを殺ころし，そのほかあらゆる悪あく事じを行おこなったからである。しかし，法ほう律りつに背そむいた者ものにはすべて，できるかぎりその法ほう律りつが適てき用ようされた。

33 そして，法ほう律りつに背そむいた者ものには，その法ほう律りつが適てき用ようされ，すべての者ものが自じ分ぶんの行おこなったことに応おうじて処しょ罰ばつされたので，彼かれらは前まえよりも穏おだやかになり，あえて公こう然ぜんとこのような悪あく事じを行おこなおうとしなかった。そのため，さばきつかさの統とう治ち第だい五年ねんまで，ニーファイの民たみの中なかは十じゅう分ぶんに平へい和わが保たもたれていた。