1 さて,王はこれらの言葉を聞くと,祭司たちに,「この男を連れ出して,殺してしまえ。我らはこの男と何のかかわりがあるか。この男は気が狂っている」と言った。
2 そこで祭司たちが前に出て,アビナダイを捕らえようとしたところ,アビナダイは彼らを防いで言った。
3 「わたしに触れるな。わたしに手をかければ,神があなたがたを打たれるであろう。わたしは,主がわたしを遣わして告げさせようとされたことをまだ伝え終えていない。また,あなたがたがわたしに説明するように求めたことについても,まだ説明していない。したがって,神はわたしが今滅ぼされることを許されない。
4 わたしは神から受けた命令を果たさなければならない。わたしが真実を告げたので,あなたがたはわたしに対して怒っている。また,神の御言葉を告げたので,あなたがたはわたしを気が狂っていると言って裁いた。」
5 さて,アビナダイがこれらの言葉を語ったところ,ノア王の民はあえて彼に手をかけようとしなかった。主の御霊がアビナダイのうえにあったからである。そして,彼の顔は非常な輝きを放っていた。それはまるで,モーセがシナイの山で主と語ったときの顔の輝きのようであった。
6 そしてアビナダイは,神から受けた力と権能をもって語り,言葉を続けた。
7 「あなたがたは,わたしを殺す力があなたがたにないことを知っている。だからわたしは,自分の伝えたいことを言ってしまおう。わたしはあなたがたの罪悪について真実を告げるので,それがあなたがたの心を刺すことを承知している。
8 そして,わたしの言葉によってあなたがたは不思議な思いと驚きと,また怒りに満たされている。
9 しかし,わたしは自分の言うことを伝えてしまおう。その後,自分がどこへ行くことになろうとかまわないし,救われればそれでよいと思っている。
10 ただ,これだけはあなたがたに言っておく。これから後あなたがたがわたしに対してすることは,将来起こることの予型であり,影となる。
11 さて,あなたがたに神の戒めの残りの部分を読んで聞かせよう。これらの戒めが,まだあなたがたの心に書き記されていないことが分かるからである。あなたがたがこれまで人生の大半を,罪悪を習い,教えることに費やしてきたことを,わたしは知っているからである。
12 さて,あなたがたが覚えているように,わたしは前にこう言った。『あなたは自分のために刻んだ像を造ってはならない。上は天にあるもの,下は地にあるもの,地の下の水の中にあるものの,どのような形をも造ってはならない。』
13 さらに,このようにある。『あなたはそれらにひれ伏してはならない。それらに仕えてはならない。主なるあなたの神であるわたしは,ねたむ神であるから,わたしを憎む者には,先祖の罪悪を子孫に報いて,三代,四代にまで及ぼし,
14 わたしを愛し,わたしの戒めを守る者には,千代に及ぶまで憐れみを示すからである。
15 あなたは,主なるあなたの神の名をみだりに唱えてはならない。主は,その名をみだりに唱える者を,罪のない者とはしないからである。
16 安息日を覚えて,これを聖なる日として保ちなさい。
17 六日の間働いて,あなたのすべての仕事をしなさい。
18 しかし,七日目,すなわち主なるあなたの神の安息日には,あなたはどのような仕事もしてはならない。あなたもあなたの息子,娘,僕,はしため,家畜,それにあなたの門の内にいる来訪者もそうである。
19 主は六日の間に,天地と海と,その中にある万物を造ったからである。それで,主は安息日を祝福し,これを聖なるものとした。
20 あなたの父と母を敬いなさい。主なるあなたの神があなたに与える地で,末長く暮らせるためである。
21 あなたは殺してはならない。
22 あなたは姦淫してはならない。あなたは盗んではならない。
23 あなたは隣人に対して偽証してはならない。
24 あなたは隣人の家をむさぼってはならない。隣人の妻も,僕も,はしためも,牛も,ろばも,何であっても隣人のものをむさぼってはならない。』」
25 さて,アビナダイはこれらの言葉を語り終えると,彼らに次のように言った。「あなたがたはこれらの戒めを守るために,これらのことをすべて努めて行うようこの民に教えてきたか。
26 いや,教えてこなかったと,わたしはあなたがたに言う。もしあなたがたが教えていれば,主はわたしを遣わして,この民について災いを預言させるようなことはされなかったであろう。
27 さて,あなたがたは先ほど,救いはモーセの律法によって与えられると言った。わたしはあなたがたに言う。今はまだモーセの律法を守る必要がある。しかし将来,もはやモーセの律法を守る必要のない時が来ることを,あなたがたに言っておく。
28 そしてさらに,わたしはあなたがたに言う。救いは律法だけで与えられるものではない。もしも神御自身が民の罪と不義のために行われる贖罪がなければ,たとえモーセの律法があっても,彼らは滅びるほかはない。
29 さて,わたしはあなたがたに言う。イスラエルの子らに律法が,まことに非常に厳しい律法が与えられたのは必要なことであった。彼らは強情な民で,罪悪を行うことは早いが,主なる彼らの神を思い起こすことの遅い民であったからである。
30 そこで,彼らに律法が,まことに,勤めと儀式の律法が与えられた。その律法は,神と,神に対する義務を思い起こさせるために,日々厳密に守らなければならないものであった。
31 しかし見よ,わたしはあなたがたに言う。これらのものはすべて,将来起こることの予型であった。
32 さて,彼らは律法を理解しただろうか。いや,すべての者が理解したわけではないとわたしはあなたがたに言う。それは,彼らの心がかたくなであったからである。神の贖いによらなければだれも救われないことを,彼らは理解しなかった。
33 見よ,モーセはメシヤの来臨について,また神が御自分の民を贖われることについて,彼らに預言しなかったであろうか。また,世界が始まって以来,預言を述べてきたすべての預言者たちも,これらのことについて多少にかかわりなく述べてこなかったであろうか。
34 神御自身が人の子らの中に降って来て,人の形を取り,偉大な力をもって地の面に出て行かれることを,彼らは述べてこなかったであろうか。
35 また,神が死者の復活をもたらされることと,神御自身が虐げられ,苦しめられることも,彼らは述べてこなかったであろうか。」