1さて、モーサヤはこれを終えると、だれが民の王になるべきかについて民の気持ちを知りたいと思い、全地に、すなわち民の全員に自分の言葉を伝えた。
2そして、「わたしたちは王の子アロンが王となり、統治者となることを願っています」というのが民の声であった。
3ところが、アロンはすでにニーファイの地へ行った後であったので、王は彼に王位を譲れなかった。またアロンも、王位を受けることを望まなかったであろう。さらに、モーサヤの息子たちの中には、王位を受けたいと思う者はだれもいなかった。
4そこでモーサヤ王は、民にもう一度自分の言葉を伝えた。すなわち、自分の言葉を書き記した文書を民に送った。その言葉は次のとおりである。
5「見よ、おお、わたしの民、わたしの同胞よ、わたしはあなたがたを同胞と思っているので、考慮するように求められている事柄について、よく考慮してほしい。あなたがたは王を持ちたいと願っているからである。
6さて、あなたがたに告げる。王位を継ぐ権利のある者は辞退し、王位を受けようとしない。
7もし彼の代わりにほかの者が任命されるならば、見よ、あなたがたの中に争いが起こる恐れがある。王位を継ぐ権利のあるわたしの息子が後に怒って、民の一部を率いるようにならないともかぎらない。そうなれば、あなたがたの中に戦争と対立が起こって、多くの血が流され、主の道が曲げられる原因になり、また多くの人の霊が滅ぼされることになる。
8わたしはあなたがたに告げる。知恵をよく働かせて、これらのことをよく考えよう。わたしたちにはわたしの息子を滅ぼす権利はまったくないし、彼に代わって任命されるほかの者を滅ぼすいかなる権利もない。
9わたしの息子は、もし再び高慢になり、むなしいことに戻るならば、自分が前に言ったことを取り消し、王国に対する自分の権利を主張するであろう。そうなれば、わたしの息子もこの民もひどい罪を犯すことになる。
10そこでわたしたちは、知恵を働かせてあらかじめこれらのことを考え、この民の平和に役立つことを行うようにしよう。
11したがって、わたしは余生をあなたがたの王として過ごすことにする。しかしわたしたちは、自分たちの法に従ってこの民を裁くさばきつかさを任命しよう。また、神の戒めに従ってこの民を裁く賢明な人々をさばきつかさとして選任し、この民の政務を新たに整えよう。
12さて、人は、神に裁かれる方が人に裁かれるよりもよい。神の裁きはいつも公正であるが、人の裁きは必ずしも公正でないからである。
13したがって、もし神の律法を確立して、神の律法に従ってこの民を裁こうとする正しい人々を、王に持つことが可能であれば、まことに、もしもわたしの父ベニヤミンがこの民のために行ったように行おうとする人々を、自分たちの王に持つことができるならば、あなたがたに告げる、もしもこのようにいつもできるのであれば、いつもあなたがたを治める王がいるのが望ましいであろう。
14そして、わたし自身、戦争や争い、盗み、略奪、殺人、そのほかどのような罪悪も存在することのないように、わたしの持つあらゆる力と知力を働かせて、あなたがたに神の戒めを教えようと、また全地に平和を確立しようと努めてきた。
15また、わたしは罪悪を犯した者に、それがだれであろうと、わたしたちの先祖から与えられた法に従って、その者の犯した罪科に応じて罰を与えてきた。
16さて、あなたがたに告げる。すべての人は必ずしも正しくないので、あなたがたを治める王、あるいは王たちがいるのは望ましいことではない。
17見よ、一人の悪い王が犯させる罪悪は何とひどいことか。また、滅亡の何と大きいことか。
18まことに、ノア王を思い出しなさい。ノア王の悪事と忌まわしい行いと、また彼の民の悪事と忌まわしい行いを思い出しなさい。見よ、何と大きな滅亡が彼らに及んだことか。また彼らは、自分たちの罪悪のために奴隷の状態に陥ってしまった。
19もしも彼らが心から悔い改めて、全知の創造主の介在を受けなかったならば、彼らは必ず現在まで奴隷の状態のままでいたに違いない。
20しかし見よ、彼らが主の御前にへりくだったので、主は彼らを救い出された。また、彼らが主に熱烈に叫び求めたので、主は彼らを奴隷の状態から救い出された。このように、どの場合でも、主は人の子らの中で御自分の力をもって働き、主に頼る者に憐れみの御腕を伸ばされる。
21そして見よ、わたしはあなたがたに告げる。あなたがたは罪深い王を退位させる場合、ひどい争いと多くの流血によらなければ、それができない。
22見よ、罪深い王には罪悪を犯す仲間がいる。また彼は、身辺に衛兵を置き、自分よりも前に義をもって治めてきた王たちの法を破棄し、神の戒めを足の下に踏みにじり、
23新しい法律、まことに、自分の悪事にかなう法律を制定して民の間に発布し、その法律に従わない者はだれであろうと殺させ、自分に背く者にはだれであろうと軍隊を派遣して戦わせ、できればそれらの者を滅ぼそうとするからである。このように、不義な王はあらゆる義の道を曲げる。
24さて見よ、わたしはあなたがたに告げる。このような忌まわしいことがあなたがたに及ぶのは、望ましいことではない。
25したがって、あなたがたは、わたしたちの先祖から与えられた法に従って裁かれるように、この民の声によってさばきつかさを選びなさい。先祖によって与えられた法は正しいものであって、主の御手によって先祖に授けられたものである。
26さて、民の声が正しいことに反する事柄を望むのはまれであるが、民の少数が正しくないことを求めるのは度々あることである。したがって、あなたがたは民の声によって職務を果たすように留意し、それをあなたがたの法とすべきである。
27そして、もしも民の声が罪悪を選ぶ時が来れば、それは神の裁きがあなたがたに下る時であり、神がこれまでこの地に報いを下してこられたように、あなたがたにひどい滅亡を及ぼされる時である。
28さて、もしあなたがたにさばきつかさたちがいて、彼らが与えられている法に従ってあなたがたを裁かなければ、あなたがたは、彼らを上級さばきつかさに裁いてもらうことができる。
29もし上級さばきつかさが義にかなった判決を下さなければ、あなたがたは下級のさばきつかさを集め、彼らに民の声に従って上級さばきつかさを裁かせるようにしなさい。
30わたしはあなたがたに、主を畏れてこれらのことを行うようにと命じる。わたしはあなたがたに、王を持つことなくこれらのことを行うように命じる。もしこのような状態にある人々が罪と不義を犯すならば、その責任は人々の頭に帰するであろう。
31見よ、わたしはあなたがたに告げる。過去の多くの人の罪は、彼らの王の罪悪によって引き起こされた。したがって、彼らの罪悪の責任は彼らの王の頭に帰する。
32さて、わたしはもう二度とこの不平等がこの地に、特にわたしのこの民の中にないことを願っている。この地が自由の地となり、わたしたちがこの地に住んでこれを受け継ぐことを、主が御心にかなうと見なしてくださるかぎり、またわたしたちの子孫が一人でもこの地の面に残っているかぎり、すべての人が権利と特権を等しく享受できることを、わたしは願っている。」
33モーサヤ王は、ほかにも多くのことを民に書き記し、義を守る王の直面するあらゆる試練と苦難、まことに、民のために感じる心の苦しみのすべて、民が王に訴える不平のすべてを彼らに明らかにし、また彼らにそれをすべて説明した。
34また、モーサヤ王は彼らに、このようなことはあってはならないこと、責任は民の全体で分担して、すべての人が自分の責任を負わなければならないことを告げた。
35彼はまた、不義な王が治めるときに民が被る不利益、
36まことに、不義な王のすべての罪悪と忌まわしい行い、またすべての戦争と争い、流血、盗み、略奪、みだらな行い、そのほか一々数え上げられないすべての罪悪について彼らに明らかにし、またこれらのことがあってはならないこと、これらのことは明らかに神の戒めに反することを彼らに告げた。
37そして、モーサヤ王がこれらのことを民に書き送ったところ、彼らは王の言葉が真実であると確信した。
38そこで彼らは、王を持とうとする望みを捨て、国中のすべての人が平等な機会を得ることを非常に切望するようになった。そして、すべての人が自分自身の罪の責任を喜んで負うことを言明した。
39そして彼らは、自分たちに与えられた法に従って裁く、さばきつかさとなるべき人々を、自分たちの声によって選ぶため、国の方々で幾つかの集団を成して集まった。そして彼らは、自分たちに与えられた自由を非常に喜んだ。
40彼らはモーサヤ王への愛の気持ちをますます深め、ほかのだれよりも彼を敬った。彼らは王のことを、利益すなわち人を堕落させるあの利得を追求する暴君とは思わなかったからである。彼は民から富を厳しく取り立てたことはなく、血を流すことを喜びとしたこともなく、国内に平和を確立し、民があらゆる束縛から救い出されるようにしてきたからである。そのため、彼らは王を非常に、まことに計り知れないほど敬った。
41さて、彼らは自分たちを治めるさばきつかさたち、すなわち法に従って自分たちを裁くさばきつかさたちを任命した。彼らは国中でこれを行った。
42そして、アルマは最初の大さばきつかさに任命されたが、彼は大祭司でもあった。アルマの父は彼にその職を授け、教会の諸事全般に関する責任をゆだねていた。
43さて、アルマは主の道を歩み、主の戒めを守り、義にかなった裁きを行ったので、引き続き国中が平和であった。
44このようにして、ゼラヘムラの全地で、すなわちニーファイ人と呼ばれたすべての民の中で、さばきつかさの統治が始まった。そして、アルマが最初のさばきつかさであり、大さばきつかさであった。
45さて、アルマの父は神の命令を果たし終えるまで生きて、八十二歳で死んだ。
46そしてモーサヤも、在位の第三十三年に、六十三歳で死んだ。リーハイがエルサレムを出たときから数えて五百九年になる。
47このようにして、ニーファイの民を治めた王たちの統治は終わり、また、民の教会の創設者であったアルマの時代も終わった。