1 さて,この同じ年に,見よ,ニーファイはセゾーラムという名の人にさばきつかさの職を譲った。
2 それは,ニーファイ人の法律と彼らの政体が民の声によって定められ,悪を選んだ者が善を選んだ者よりもはるかに大勢であったために,法律が改悪されて彼らの滅亡の機が熟していたからである。
3 また,これだけではない。彼らは強情な民であったので,法律によっても正義によっても彼らを治めることができず,ただ滅亡があるのみであった。
4 そしてニーファイは,彼らの罪悪にうんざりしてしまった。そこで彼はさばきつかさの職を譲り,神の言葉を宣べ伝える務めに余生をささげた。また,彼の弟リーハイも同じ務めに余生をささげた。
5 彼らは父ヒラマンが自分たちに語った言葉を思い出したからである。ヒラマンが語った言葉は次のとおりである。
6 「見よ,わが子らよ,わたしはあなたたちが神の戒めを守ることを忘れないようにと願っている。また,次の言葉を民に告げ知らせてもらいたい。見よ,わたしは,エルサレムの地からやって来たわたしたちの最初の先祖の名を,あなたたちに付けた。わたしがこうしたのは,あなたたちが自分の名を思うときに先祖を思い起こせるように,そして先祖を思い起こすときに先祖の行いを思い起こせるように,そして先祖の行いを思い起こすときに,先祖の行いが善かったことがどのように言い伝えられ,書き記されているか分かるようにするためである。
7 わが子らよ,あなたたちは先祖について言い伝えられ,書き記されてきたように,自分たちについても言い伝えられ,書き記されるように善いことをしてもらいたい。
8 わが子らよ,見よ,あなたたちに望むことがもう少しある。それは,誇るためにこれらのことを行うのではなく,まことに永遠の,消えてなくなることのない宝を自分自身のために天に蓄えるため,これらのことを行うようにということ,そしてわたしたちの先祖にすでに与えられていると考えて当然である,あの貴い永遠の命の賜物をあなたたちも持てるようにということである。
9 おお,覚えておきなさい。わが子らよ,ベニヤミン王が彼の民に語った言葉を覚えておきなさい。まことに,将来来られるイエス・キリストの贖いの血によってのみ人は救われるのであり,ほかには一切道も手段もないことを覚えておきなさい。まことに,イエス・キリストが世を贖うために来られることを覚えておきなさい。
10 また,アミュレクがアモナイハの町でゼーズロムに語った言葉も覚えておきなさい。アミュレクは彼に,主は確かに主の民を贖うために来られるが,彼らを罪のあるまま贖うためではなく,彼らを罪から贖うために来られるのであると語った。
11 主は,彼らが悔い改めるときに彼らを罪から贖うために,御父から授けられた力を持っておられるのである。したがって,主は悔い改めの条件について告げ知らせるために,天使たちを遣わしてこられた。この悔い改めは人々を贖い主の力のもとに導き,彼らに救いを得させるものである。
12 わが子らよ,覚えておきなさい。あなたたちは,神の御子でありキリストである贖い主の岩の上に基を築かなければならないことを覚えておきなさい。そうすれば,悪魔が大風を,まことに旋風の中に悪魔の矢を送るときにも,まことに悪魔の雹と大嵐があなたたちを打つときにも,それには不幸と無窮の苦悩の淵にあなたたちを引きずり落とす力はない。なぜならば,あなたたちは堅固な基であるその岩の上に建てられており,人はその基の上に築くならば,倒れることなどあり得ないからである。」
13 さてこれは,ヒラマンが息子たちに教えた言葉である。まことに,彼はここに書き記されていない多くのことと,ここに書き記されている多くのことを彼らに教えた。
14 ヒラマンの息子たちは父の言葉を思い出したので,神が命じられるままに,ニーファイのすべての民の中で神の言葉を教えるために出て行った。そして,最初にバウンティフルの町で教えた。
15 そして,そこからギドの町へ行き,ギドの町からミュレクの町へ行った。
16 そして,町から町へと巡って,ついに彼らは南方の地にいたすべてのニーファイの民の間を巡り終え,そこからゼラヘムラの地へ行ってレーマン人の中に入って行った。
17 そして彼らは,大きな力をもって教えを説き,前にニーファイ人から別れて去った離反者たちの多くを説き破った。そこで,これらの者たちは進み出て,罪を告白し,悔い改めのためのバプテスマを受け,以前にニーファイ人に対して自分たちが行った不当な仕打ちを償うために,すぐにニーファイ人のもとに帰って行った。
18 そしてニーファイとリーハイは,レーマン人にも同じように大きな力と権能をもって教えを説いた。彼らは語ることができるように力と権能を与えられており,また語るべき事柄も示されたからである。
19 そこで彼らは語ってレーマン人を非常に驚かせ,彼らに確信を抱かせたので,ゼラヘムラの地とその周りで悔い改めのためのバプテスマを受け,自分たちの先祖の言い伝えが正しくないことを確信したレーマン人は八千人に上った。
20 そして,ニーファイとリーハイはそこからニーファイの地へ向かった。
21 さて,彼らは,レーマン人の軍隊に捕らえられ,牢に入れられてしまった。まことに,アンモンと彼の同僚たちがリムハイの部下によって入れられた,あの牢であった。
22 ニーファイとリーハイが食べ物もなく牢に入れられたまま幾日も過ぎてから,見よ,人々が二人を連れ出して殺そうと,牢の中に入って来た。
23 さて,ニーファイとリーハイは火のようなものに包まれていた。そのため,人々は自分たちが焼かれてしまうのではないかと恐れ,あえて二人に手をかけようとしなかった。それでも,ニーファイとリーハイは焼かれなかった。二人は火の中に立っているようでありながら焼かれなかった。
24 二人は,自分たちが火の柱に包み込まれていながらも焼かれないのを見て,心に勇気を得た。
25 二人は,レーマン人があえて自分たちに手をかけようとせず,またあえて近づこうともせず,驚きのあまり物が言えなくなったかのような有様で立っているのを見たからである。
26 そこで,ニーファイとリーハイは進み出て,彼らに語り始めた。「恐れてはならない。見よ,あなたがたにこの驚くべきことを示されたのは神である。わたしたちに手をかけて殺すことはできないということが,これによってあなたがたに示されているのである。」
27 見よ,二人がこれらの言葉を語り終えると,大地が激しく揺れ動き,牢の壁がまさに地に崩れ落ちるほどに揺れた。それでも見よ,壁は倒れなかった。また見よ,牢の中にいた者たちは,レーマン人と,離反者のニーファイ人であった。
28 そして彼らは,暗黒の雲に覆われ,非常な恐怖に襲われた。
29 そして,その暗黒の雲の上の方から聞こえるかのように,一つの声があって言った。「悔い改めよ,悔い改めよ。よきおとずれを告げ知らせるためにあなたがたのもとに遣わした僕たちを,二度と滅ぼそうとしてはならない。」
30 さて,彼らはこの声を聞いたが,見よ,それは雷のような声ではなく,大きな騒々しい音でもなく,見よ,まるでささやきのような,まったく優しい静かな声であり,それでいて心の底までも貫いた。
31 その声は優しかったにもかかわらず,見よ,大地は激しく揺れ動き,まさに地に崩れ落ちるほどに牢の壁は再び揺れた。見よ,彼らを覆っていた暗黒の雲は消え去らなかった。
32 そして見よ,再び声が聞こえた。「悔い改めよ,悔い改めよ。天の王国は近いからである。二度とわたしの僕たちを滅ぼそうとしてはならない。」その後,再び大地が揺れ動き,壁が揺れた。
33 それから三度目の声が聞こえ,人に言い表せない驚くべき言葉を彼らに告げた。そして,またもや壁が揺れ,大地がまさに引き裂けるほどに揺れ動いた。
34 さてレーマン人は,暗黒の雲に覆われていたので,逃げることができなかった。また恐怖に打たれていたので,動くこともできなかった。
35 このレーマン人の中に,生まれがニーファイ人で,かつて神の教会に属していたが,その後教会から離反していた者が一人いた。
36 そして,彼は振り返ると,見よ,暗黒の雲を通してニーファイとリーハイの顔を見た。すると見よ,二人の顔はまるで天使の顔のように非常に輝いていた。また彼は,二人が目を天に向けて,二人には見えているある人に語りかけて,すなわち声を上げているような様子であるのも見た。
37 そこでこの男は大勢の者たちに,振り向いて見るように叫んだ。そして見よ,振り向いて見る力が彼らに与えられたので,彼らはニーファイとリーハイの顔を見た。
38 そして彼らはその男に,「見よ,これは一体どういうことなのだ。この者たちが話している相手はだれなのか」と尋ねた。
39 その男の名はアミナダブといった。アミナダブは彼らに,「二人は神の天使たちと話している」と言った。
40 そこで,レーマン人は彼に,「我々を覆っているこの暗黒の雲が離れ去るようにするには,我々はどうすればよいのか」と言った。
41 そこでアミナダブは彼らに,「あなたがたは悔い改めて,アルマとアミュレクとゼーズロムがあなたがたに教えた,キリストを信じる信仰を持てるまで,先ほどの声に向かって叫び求めなければならない。このようにするときに,あなたがたを覆っている暗黒の雲は離れ去るだろう」と言った。
42 そこで,彼らは皆,大地を震わせた御方の声に向かって叫び求め,まことに,暗黒の雲が消え去るまで叫び求めた。
43 そして周りを見回すと,彼らを覆っていた暗黒の雲は離れ去り,見よ,彼らは一人残らず火の柱に包み込まれていた。
44 そして,ニーファイとリーハイが彼らの真ん中にいた。まことに,彼らは包み込まれ,まるで燃える火の中にいるかのようであったが,その火は彼らを損なうことなく,また牢の壁に燃えつくこともなかった。また彼らは,言いようのない,栄光に満ちた喜びに満たされた。
45 そして見よ,神の聖なる御霊が天から降って,彼らの心の中に入られたので,彼らはあたかも火で満たされたかのようになり,驚くべき言葉を語ることができた。
46 そして彼らに声が,すなわち,まるでささやくような快い声が聞こえた。
47 「平安があるように。あなたがたは世の初めからいる,わたしの心から愛する者を信じているので,あなたがたに平安があるように。」
48 彼らはこの声を聞くと,どこから声が聞こえてくるのか見ようとするかのように仰ぎ見た。すると見よ,天が開くのが見えた。そして,天使たちが天から降って来て,彼らに仕えた。
49 これらのことを見聞きした者はおよそ三百人であった。彼らは不思議に思うことなく,また疑うこともなく出て行くように命じられた。
50 そこで,彼らは出て行き,民を教え,自分たちが見聞きしたすべてのことを,周りのすべての地方に告げ知らせた。その結果,レーマン人の大半がそれらのことを確信するようになった。彼らの得た証拠が偉大であったからである。
51 そして,確信を得た者たちは皆,武器を捨て,また憎悪と先祖の言い伝えも捨てた。
52 そして彼らは,ニーファイ人の所有地をニーファイ人に譲り渡した。