1さて、わたしは兄たちに言った。「わたしたちはまたエルサレムへ上って行きましょう。そして、主の命令を忠実に守りましょう。まことに、主は全地にも増して力ある御方なのですから、どうしてラバンとその家来の五十人よりも力が劣ることがあるでしょうか。いや、ラバンに何万人あっても主の力にはかないません。
2だから行きましょう。モーセのように強くなろうではありませんか。事実、モーセが紅海の水に語りかけると、紅海の水は右と左に分かれました。そして、わたしたちの先祖は囚われの身から逃れて、乾いた土の上を通って来ました。ところがパロの軍勢は、後を追って来て、紅海の水におぼれて死にました。
3さてまことに、あなたがたは、これがほんとうであることを知っています。また、一人の天使があなたがたに語りかけたことも知っています。それでいて、どうして疑うことができるのですか。行きましょう。主は、わたしたちの先祖を救われたように、わたしたちも救い、エジプト人を滅ぼされたように、ラバンをも滅ぼすことがおできになるのです。」
4わたしがそう言ってからも、まだ兄たちは憤ってつぶやき続けた。それでも彼らはわたしの後について来て、わたしたちはエルサレムの城壁の外まで来た。
5時はもう夜であった。わたしは兄たちを城壁の外に忍ばせた。彼らが身を隠してから、わたしニーファイは都に忍び込み、ラバンの家に向かって進んで行った。
6わたしは、前もって自分のなすべきことを知らないまま、御霊に導かれて行った。
7にもかかわらず、そのようにして進んで、ラバンの家の近くに来ると、一人の男を見かけた。その男はぶどう酒に酔ってわたしの前の地面に倒れていた。
8近づいて見ると、それはラバンであった。
9わたしはラバンの剣に目をやった。そして、それをさやから引き抜いた。柄は純金であって実に見事な造りで、刃は最も上等な鋼でできていた。
10さて、わたしはラバンを殺すように強く御霊に促された。しかし心の中で、「わたしは今までどんなときにも人の血を流したことはない」と言った。わたしはしりごみをし、ラバンを殺さなくて済むようにと思った。
11すると御霊が再び、「見よ、主はすでに、この男をあなたの手に渡された」と言われた。そしてわたしも、ラバンがわたしの命を奪おうとしたこと、ラバンが主の命令に聞き従わないだろうということ、またわたしたちの持っているものを奪ったことを知っていた。
12そして御霊が、またわたしに言われた。「この男を殺しなさい。主はあなたの手にこの男を渡された。
13見よ、主は、義にかなった目的を果たすためには、悪人を殺される。一人の人が滅びるのは、一つの国民が不信仰に陥って滅びてしまうよりはよい。」
14わたしニーファイはこの御言葉を聞いたとき、主が荒れ野でわたしに言われた、「あなたの子孫はわたしの命令を守るかぎり、約束の地で栄える」という御言葉を思い出した。
15そしてわたしはまた、もしもわたしの子孫にモーセの律法がなかったならば、子孫はその律法に従って主の命令を守ることができなくなるとも考えた。
16またわたしは、その律法が真鍮の版に刻まれていることも知っていた。
17さらにわたしは、この理由、すなわち、わたしが主の命令に従ってあの記録を手に入れることができるようにという理由で、主がラバンをわたしの手に渡されたことを知っていた。
18それでわたしは御霊の声に従い、ラバンの髪の毛をつかみ、ラバン自身の剣で彼の首を打ち落とした。
19わたしは、ラバン自身の剣で彼の首を打ち落としてから、ラバンの衣服を取って一つ残らず身に着け、また彼の武具を腰にまとった。
20それからわたしは、ラバンの宝物蔵へ進んで行った。ラバンの宝物蔵へ進んで行くと、見よ、宝物蔵の鍵を持っているラバンの召し使いに出会った。それでわたしは、ラバンの声色を使って、わたしとともに宝物蔵に入るように命じた。
21召し使いは、わたしの衣服と腰に帯びている剣を見て、わたしを主人のラバンだと思い込んでいた。
22彼は、主人のラバンがその夜ユダヤ人の長老たちのところへ出かけて行ったのを知っていたので、その長老たちのことをわたしに話した。
23わたしはラバンのふりをして彼に話をした。
24わたしはまた、真鍮の版に刻まれたものを、城壁の外にいるわたしの兄弟たちのところへ持って行くのだと言った。
25そしてその召し使いに、ついて来るように言った。
26するとその召し使いは、教会の兄弟たちのことを言っているのだと思い、またわたしのことを、わたしが手にかけたあのラバンだとほんとうに思い込んでいたので、後について来た。
27また召し使いは、城壁の外にいる兄たちのところへ行く途中で、何度もわたしに向かってユダヤ人の長老たちのことを話した。
28さて、レーマンはわたしを見ると非常におびえ、またレムエルもサムもともにおびえて、わたしの前から逃げ出した。わたしをラバンだと思い、ラバンがわたしを殺して、自分たちの命も奪いに来たと思ったからである。
29そこでわたしは、逃げる後から兄たちを呼んだ。すると兄たちは、わたしの声を聞いて、わたしの前から逃げるのをやめた。
30そして、ラバンの召し使いは、兄たちを見ておののき始め、わたしの前から逃げてエルサレムの都へ帰ろうとした。
31しかしわたしニーファイは、身の丈が高いうえに主から強い力を授かっていたので、ラバンの召し使いを捕まえて、逃げないように押さえつけた。
32そしてわたしは、わたしの言うことに聞き従うならば、主が生きておられ、またわたしが生きているように、まことにそのように、わたしたちの言うことに聞き従うならば、命を助けてやると言った。
33また、恐れるには及ばないこと、そしてもしわたしたちと荒れ野へ下って行くならば、わたしたちと同様に自由の身になることを、まことに誓って言った。
34わたしはまた言った。「主は確かに、このことを行うようにわたしたちに命じられた。わたしたちは主の命令を熱心に守るべきではないか。もしあなたが荒れ野へ下って、わたしの父のところへ行くならば、わたしたちとともに暮らせるだろう。」
35さて、ゾーラムは、わたしの語った言葉を聞いて勇気を得た。ところで、ゾーラムとはこの召し使いの名である。彼は荒れ野へ下って行って、わたしの父のところへ行くと約束した。そしてまた、その先わたしたちとともに住むと誓った。
36ところでわたしたちには、ゾーラムが行動を共にすることを願う理由があった。それは、わたしたちが荒れ野へ逃げたことをユダヤ人に知られ、追いかけられて殺されることのないようにするためであった。
37さて、ゾーラムがわたしたちに誓ったので、彼についての心配はなくなった。
38そこでわたしたちは、真鍮の版を持ち、ラバンの召し使いを連れて荒れ野へ出発し、父の天幕に向かって旅路を進んだ。