1さて、わたしたちはまた荒れ野の中を旅し、このときからはほぼ東の方へ進んで行った。わたしたちは旅をしながら、多くの苦難を乗り越えていった。そして妻たちは荒れ野の中で子供を産んだ。
2そして、主の祝福が大変豊かであったので、妻たちは荒れ野で生肉を食べて暮らしていたのに、子供に乳を十分飲ませ、しかもまことに男のように強かった。彼女たちはつぶやかずに旅に耐えるようになった。
3このように、神の命令は必ず成し遂げなければならないことが分かる。もし人の子らが神の戒めを守るならば、神は彼らを養い、強くし、また御自分が命じられたことを成し遂げる手段を与えられる。それで神は、わたしたちが荒れ野にとどまっていたときにも、わたしたちに手段を与えられた。
4そしてわたしたちは、長い間、まことに八年もの間荒れ野の中にとどまった。
5そして、果実と野蜜が豊かであることからバウンティフルと名付けた地に来た。これらのものはすべて、わたしたちが滅びないように主が備えてくださったのであった。わたしたちはここで海を見て、イリアンタムと名付けた。それは多くの水という意味である。
6さて、わたしたちは海辺の近くに天幕を張った。わたしたちはこれまで多くの苦難や困難に、まことに書き尽くせないほど多くの苦難や困難に遭ったが、海辺に着いて非常に喜びを感じ、そこは果実が豊かであることから、その地をバウンティフルと名付けたのであった。
7さて、わたしニーファイが、バウンティフルの地で何日も日を過ごしたところで、主の声が聞こえて、わたしに、「立って山へ行きなさい」と言われた。そこでわたしは、立って山へ行き、主に叫び求めた。
8そこで主は、わたしに言われた。「わたしがこれから示す方法に従って、一隻の船を造りなさい。この大海を越えて、わたしがあなたの民を連れて行けるようにするためである。」
9それでわたしは、「主よ、お示しくださった方法に従って船を造るための道具を造るには、どこへ行ってあらがねを見つけたらよろしいでしょうか」と言った。
10そこで主は、その道具を造れるように、あらがねの見つかる場所をわたしに教えてくださった。
11そこでわたしニーファイは、火を吹くためのふいごを獣の皮で作った。そして火を吹くためのふいごを作ってから、二個の石を打ち合わせて火をおこした。
12荒れ野を旅するときに、主はこれまでわたしたちに、あまり火をおこすことを許されなかった。主が、「わたしがあなたがたの食物の味を良くするので、煮炊きするには及ばない。
13わたしはまた、荒れ野であなたがたの光となろう。あなたがたがわたしの命令を守るならば、わたしはあなたがたの前に道を備えよう。したがって、あなたがたはわたしの命令を守るかぎり、約束の地に導かれるであろう。そして、あなたがたを導いているのがわたしであることを知るであろう」と言われたからである。
14主はまた言われた。「あなたがたは約束の地に着いた後、主なるわたしが神であり、また主なるわたしがあなたがたを滅亡から救い出したこと、まことに、わたしがあなたがたをエルサレムの地から連れ出したことを知るであろう。」
15それでわたしニーファイは、主の命令を守るように努め、また兄たちにも、忠実であり勤勉であるように勧めた。
16さて、わたしは岩石から溶かし出したあらがねで道具を造った。
17兄たちは、わたしが船を造ろうとするのを見ると、わたしのことをつぶやいて言った。「弟は愚か者だ。弟は船が造れると思っているし、この大海を渡れると思っている。」
18このように、兄たちはわたしのことで不平を言い、働かなくてもよいようにと思っていた。彼らは、わたしに船が造れることを信じようとせず、またわたしが主から指示を受けていたことも、信じようとしなかったからである。
19そこでわたしニーファイは、兄たちの心がかたくななためにひどく悲しんだ。すると兄たちは、わたしが悲しみだしたのを見て心の中で喜び、わたしのことでうれしく思ったほどで、このように言った。「おまえに船が造れないのは分かっていた。分別が足りないからだ。おまえには、そんな大仕事を成し遂げることはできない。
20おまえは、心に浮かぶつまらない空想に惑わされた父によく似ている。まことに、父は我々をエルサレムの地から連れ出し、我々は長年の間荒れ野をさまよってきた。そして、我々の妻は身重の体で身を粉にして働き、荒れ野で子を産み、ただ死ななかっただけであらゆる苦しみに遭った。妻たちは、このような苦難に遭うくらいなら、エルサレムを出る前に死んだ方がましだった。
21見よ、我々は、長年の間荒れ野で苦しんできたが、その間に自分たちの財産や受け継ぎの地をほしいままにして、幸せに暮らせたかもしれない。
22我々は、エルサレムの地にいた民が義の民であったことを知っている。なぜなら、彼らはモーセの律法に従って、主の掟と裁決と主のすべての戒めに従っていたからだ。だから我々は、彼らが義の民であることを知っている。ところが、父は彼らを裁いた。そして、我々が父の言葉に聞き従ったので、我々をエルサレムから連れ出した。弟は父によく似ている。」兄たちはこのような言葉でつぶやき、父とわたしに対して不平を言った。
23そこで、わたしニーファイは兄たちに言った。「あなたがたは、イスラエルの子らであるわたしたちの先祖が主の御言葉に聞き従わなかったとしても、エジプト人の手から導き出されていたと信じているのですか。
24まことに、あなたがたは、主がモーセに彼らを奴隷の状態から導き出すように命じられなかったとしても、先祖が奴隷の状態から導き出されたと思っているのですか。
25あなたがたは、イスラエルの子らが奴隷の状態になっていたことや、彼らが堪え難いほどの苦役を負っていたことを知っています。ですから、彼らが奴隷の状態から導き出されることが、彼らにとって良いことであったに違いないことを、あなたがたは知っているのです。
26あなたがたは、モーセがあの大いなる業を行うように主から命じられたことを知っています。またモーセの言葉によって、紅海の水が右と左に分かれ、イスラエルの子らが乾いた地を渡ったことも知っています。
27しかしあなたがたは、パロの軍勢であるエジプト人が、紅海でおぼれて死んでしまったことも知っています。
28あなたがたはまた、イスラエルの子らが荒れ野において、マナで養われたことも知っています。
29またモーセが、自分の内にある神の力によって言葉を発して岩を打ったところ、水がわき出し、これを飲んでイスラエルの子らが渇きをいやすことができたことも知っています。
30彼らの神であり贖い主である主は、彼らに先立って進み、昼は彼らを導き、夜は彼らに光を与え、人が受けて益になるあらゆることを彼らのためにしてくださいました。そのようにして導かれたにもかかわらず、彼らは心をかたくなにし、思いをくらまして、モーセとまことの生ける神をののしりました。
31そこで神は、御自分の御言葉のとおりに彼らを滅ぼし、御自分の御言葉のとおりに彼らを導き、御自分の御言葉のとおりに彼らのためにあらゆることを行われました。神の御言葉によらないで行われたことは何もありません。
32そして、彼らがヨルダン川を渡ると、主は彼らを、その地に住む人々を追い散らして滅ぼすほどにまで強大にされました。
33さて、この地の人々、すなわち、約束の地に住んでいてわたしたちの先祖に追い出された人々、あなたがたはその人々を義人だと思いますか。まことにわたしは、決してそうではなかったと言います。
34あなたがたは、彼らがもしも義人であったなら、わたしたちの先祖は彼らよりもさらにえり抜かれた者になっていたと思いますか。わたしはそうではなかったと言います。
35まことに、主はすべての人を公平に重んじられ、義にかなった者は神から恵みを受けます。しかしまことに、この民は、神のすべての御言葉を拒んで罪悪が熟しました。それで、神の満ちみちた激しい怒りが彼らに下り、主は彼らに対しては地をのろい、わたしたちの先祖のためには地を祝福されました。すなわち、彼らに対しては、地をのろって彼らを滅びに至らせ、わたしたちの先祖のためには、地を祝福してその地を治める力を得させてくださったのです。
36まことに主は、人が住めるように大地を造り、それを所有できるように御自分の子供たちを造られました。
37そして主は、義にかなった一つの国民を起こして、邪悪な者たちから成る諸国民を滅ぼされます。
38そして主は、義人を貴い地へ導き、また悪人を滅ぼして、彼らのために地をのろわれます。彼らの行いがそうさせるのです。
39天は主の御座であって、地は主の足台ですから、主は高く天にあって支配されます。
40そして主は、主を神とする人々を愛されます。まことに、主はわたしたちの先祖を愛し、彼ら、すなわちアブラハム、イサク、ヤコブと聖約を交わされました。そして主は、御自分が交わした聖約を覚えておられます。それで、わたしたちの先祖をエジプトの地から導き出されたのです。
41しかし、わたしたちの先祖がちょうどあなたがたのように心をかたくなにしたので、主は荒れ野で、杖をもって彼らを苦しい目に遭わせられました。主は、彼らの罪悪のために、彼らを苦しい目に遭わせられたのです。主は火の飛ぶ蛇を彼らの中に送り、また彼らがかまれた後で、癒される方法を備えられました。彼らがしなければならなかったことは、ただ目を向けて見るだけのことでしたが、その方法が単純であったため、すなわち容易であったために、死んだ人が大勢いました。
42彼らは時々心をかたくなにし、モーセをののしり、また神をもののしりました。にもかかわらず、彼らが神のたぐいない力によって約束の地に導かれたことは、あなたがたがよく承知していることです。
43そして、すべてこれらのことがあって、彼らは邪悪になり、まことにほぼ熟するほど邪悪になってしまいました。今日にも滅ぼされるかもしれません。囚われの身となってよそへ連れて行かれるわずかな者を除いて、彼らが滅ぼされる日が必ず来るに違いないことを、わたしは知っているからです。
44そのために、主は父に荒れ野へ出て行くように命じられました。またユダヤ人が父の命を奪おうとしたこともありました。あなたがたもまた、父の命を奪おうとしたことがあります。したがって、あなたがたは心の中で人殺しをしたのであって、まるでユダヤ人のようです。
45あなたがたは罪悪を行うのは早いけれども、主なるあなたがたの神を思い起こすのは遅い。あなたがたは一人の天使に会い、その天使はあなたがたに語りかけました。まことに、あなたがたはその声を時々聞いています。天使は静かな細い声で語りかけましたが、あなたがたは心が鈍っていたので、その言葉を感じることができませんでした。それで天使は雷のような声であなたがたに語りかけ、その声は、まるで引き裂くほどに大地を揺り動かしました。
46またあなたがたは、主が全能の御言葉の力をもって、この大地を過ぎ去らせることがおできになることを知っています。また主が、御自分の御言葉によって起伏の激しい地を平らにし、平らな所を崩すことがおできになることを知っています。おお、それなのにどうしてあなたがたは、そのように心をかたくなにしていられるのですか。
47まことに、わたしの心はあなたがたのことで苦しんで張り裂け、わたしの胸は痛みます。あなたがたがとこしえに捨てられてしまうことを、わたしは恐れます。まことに、わたしは神の御霊に満たされて、体の力がなくなりそうです。」
48さて、わたしがこれらの言葉を語り終えると、兄たちはわたしに腹を立てて、わたしを海の深みに投げ込んでしまおうと思った。そして、兄たちがわたしを捕まえようとして近寄って来たところで、わたしは言った。「全能の神の御名によって命じる。わたしに手を触れるな。わたしは身が燃え尽きるほどに神の力に満たされているから、わたしに手をかける者はだれでも、枯れた葦のようにしおれてしまうであろう。また、神がその人を打たれるから、神の力の前に取るに足りない者となるであろう。」
49そして、わたしニーファイは兄たちに、これからもう父に対してつぶやいてはならないこと、また神がわたしに船を造るように命じられたので、わたしとともに働くことを拒んではならないことを話した。
50わたしはまた彼らに言った。「どのようなことでも神がわたしに命じられれば、わたしにはそれができる。もし、神がわたしにこの水に向かって『陸になれ』と言うように命じられれば、水は陸になる。わたしがそう言えば、そのとおりになる。
51主がこのように偉大な力をお持ちになって、これほど多くの奇跡を人の子らの中で行われたとすれば、どうしてわたしに一隻の船を造ることを教えられないことがあろうか。」
52さて、わたしニーファイが兄たちに多くのことを言ったので、兄たちは言い伏せられてわたしと言い争うことができず、それから長い間、あえてわたしに手をかけることも、指で触れることもしなかった。神の御霊が非常に力強かったので、兄たちはわたしの前で枯れてしまうことのないように、あえてそうしなかったのである。神の御霊は、それほどまでに彼らに働きかけられたのであった。
53そして主は、「あなたの手を、もう一度あなたの兄たちに向けて伸ばしなさい。彼らはあなたの前で枯れはしないが、わたしは彼らの体を震えさせよう。こうするのは、わたしが主なる彼らの神であることを知らせるためである」と言われた。
54そこでわたしが、片方の手を兄たちに向けて伸ばすと、兄たちはわたしの前で枯れはしなかったが、主は語られた御言葉のとおりに彼らの身を震えさせられた。
55そこで兄たちは、「主がおまえとともにおられることが、確かに分かった。我々の身を震えさせたのが主の力であることが、分かっているからだ」と言い、わたしの前にひれ伏して、わたしを拝もうとした。しかし、わたしはそれをさせないで言った。「わたしはあなたがたの兄弟です。弟ではありませんか。ですから、主なるあなたがたの神を拝して、主があなたがたに授けてくださる地で長く暮らせるように、父と母を敬ってください。」