1さて（このときに準じゅん備びされた船ふねの数かずは八隻せきであった）、ヤレドの兄きょう弟だいは、非ひ常じょうに高たかいために彼かれらがシーレム山さんと名な付づけた山やまに行いき、一つの岩いわから十六個この小ちいさな石いしを溶とかし出だした。その石いしは白しろく、透すき通とおっており、透とう明めいなガラスのようであった。そして、彼かれはそれらの石いしを両りょう手てに持もって山やまの頂ちょう上じょうに登のぼり、再ふたたび主しゅに祈いのって言いった。

2「おお、主しゅよ、あなたは、わたしたちが必かならず水みずの深ふかみに取とり囲かこまれると言いわれました。まことに、おお、主しゅよ、あなたの僕しもべがあなたの御み前まえにあって弱よわいからということで、あなたの僕しもべをお怒いかりにならないでください。わたしたちはあなたが聖せいなる御お方かたであり、天てんに住すんでおられること、そしてわたしたちがあなたの御み前まえに取とるに足たりない者ものであることを存ぞんじています。堕だ落らくのために、わたしたちの性せい質しつは絶たえず悪わるくなっています。にもかかわらず、おお、主しゅよ、あなたはわたしたちに戒いましめを与あたえられ、わたしたちの望のぞみに応おうじてあなたから得えられるようにあなたに請こい願ねがわなければならないと言いわれました。

3まことに、おお、主しゅよ、あなたはわたしたちの罪ざい悪あくのためにわたしたちを打うち、わたしたちを追おい出だされました。そして、わたしたちはこれまで何なん年ねん間かんも荒あれ野ので暮くらしてきました。それでも、あなたはわたしたちに憐あわれみをかけられました。おお、主しゅよ、わたしたちを哀あわれと思おもい、あなたのこの民たみからあなたの怒いかりを遠とおざけ、この民たみが暗くら闇やみの中なかでこの荒あれ狂くるう深ふかみを越こえて行いくことのないようにしてください。わたしが岩いわから溶とかし出だしたこれらのものを御ご覧らんください。

4おお、主しゅよ、わたしはあなたが一いっ切さいの権けん威いをお持もちであり、あなたが人ひとのために望のぞまれることは何なんでもおできになることを存ぞんじています。ですから、おお、主しゅよ、これらの石いしにあなたの指ゆびで触ふれて、これらの石いしが暗くら闇やみの中なかで光ひかりを放はなつものとなるようにしてください。そうすれば、これらの石いしはわたしたちが準じゅん備びした船ふねの中なかでわたしたちのために光ひかりを放はなち、わたしたちは海うみを渡わたる間あいだ、光ひかりを得えることができるでしょう。

5まことに、おお、主しゅよ、あなたにはこれがおできになります。わたしたちはあなたが大おおいなる力ちからを示しめされることを存ぞんじています。その力ちからは人ひと々びとの理り解かいでは小ちいさく見みえますが、実じつは大おおいなるものです。」

6そして、ヤレドの兄きょう弟だいがこれらの言こと葉ばを述のべ終おえると、見みよ、主しゅは手てを差さし伸のべて、指ゆびで一つ一つ石いしに触ふれられた。すると、ヤレドの兄きょう弟だいの目めから幕まくが取とり除のぞかれ、彼かれは主しゅの指ゆびを見みた。それは人ひとの指ゆびのようで、血けつ肉にくの指ゆびに似にていた。ところが、ヤレドの兄きょう弟だいは恐きょう怖ふに打うたれ主しゅの前まえに倒たおれた。

7主しゅはヤレドの兄きょう弟だいが地ちに倒たおれたのを見みて、彼かれに言いわれた。「立たち上あがりなさい。なぜあなたは倒たおれたのか。」

8そこで彼かれは主しゅに答こたえた。「わたしは主しゅの指ゆびを見みて、主しゅに打うたれるのではないかと恐おそれました。主しゅが血けつ肉にくをお持もちであることを知しらなかったからです。」

9すると主しゅは彼かれに言いわれた。「あなたは信しん仰こうがあるので、わたしが将しょう来らい血けつ肉にくを受うけるのを見みたのである。これまでにあなたのような深ふかい信しん仰こうをもって、わたしの前まえに来きた者ものは一人ひとりもいない。もしそうでなければ、あなたはわたしの指ゆびを見みることができなかったであろう。あなたはこれ以い外がいに何なにかを見みたか。」

10そこで彼かれは答こたえた。「いいえ。主しゅよ、わたしに御ご自じ身しんを現あらわしてください。」

11すると主しゅは彼かれに言いわれた。「あなたはわたしが告つげる言こと葉ばを信しんじるか。」

12そこで、彼かれは答こたえた。「はい。主しゅよ、わたしはあなたが真しん実じつを告つげられることを存ぞんじています。あなたは真しん理りの神かみであり、偽いつわりを言いわれることはありません。」

13彼かれがこれらの言こと葉ばを述のべ終おえると、見みよ、主しゅは彼かれに御ご自じ身しんを現あらわして言いわれた。「あなたはこれらのことを知しっているので、堕だ落らくから贖あがなわれ、わたしの前まえに連つれ戻もどされている。そこで、わたしはあなたにわたし自じ身しんを現あらわす。

14見みよ、わたしは、自じ分ぶんの民たみを贖あがなうために世よの初はじめから備そなえられた者ものである。見みよ、わたしはイエス・キリストである。わたしは父ちちであり、子こである。わたしによって全ぜん人じん類るいは命いのちを得える。すなわち、わたしの名なを信しんじる者ものは永えい遠えんに命いのちを得える。そして、これらの者ものはわたしの息子むすことなり、娘むすめとなる。

15わたしは、これまでわたしの造つくった者ものに一いち度どもわたし自じ身しんを現あらわしたことはない。あなたほど深ふかくわたしを信しんじた者ものがいなかったからである。あなたは、あなたがたがわたし自じ身しんの形かたちに造つくられていることが分わかったか。まことに、すべての人ひとは初はじめにわたし自じ身しんの形かたちに造つくられたのである。

16見みよ、あなたが今いま見みているこの体からだは、わたしの霊れいの体からだである。わたしは自じ分ぶんの霊れいの体からだに倣ならって人ひとを造つくった。わたしは今いま、霊れいの状じょう態たいであなたに現あらわれているように、将しょう来らい肉にくにあってわたしの民たみに現あらわれる。」

17さて、わたしモロナイは、書かき記しるされているこれらのことについて、すべてを記しるすことはできないと前まえに述のべたので、次つぎのことを言いえばわたしにとって十じゅう分ぶんである。すなわちイエスは、ニーファイ人じんに御ご自じ身しんを現あらわされたときと同おなじように、同おなじ体からだの形かたちで、霊れいの状じょう態たいでこの人ひとに御ご自じ身しんを現あらわされた。

18またイエスは、ニーファイ人じんを教おしえ導みちびかれたように、彼かれをも教おしえ導みちびかれた。これはすべて、主しゅがこれまでこの人ひとに示しめされた多おおくの大おおいなる業わざによって、御ご自じ分ぶんが神かみであられることを彼かれに知しらせるためであった。

19この人ひとは知ち識しきがあったので、幕まくの内うち側がわを見みるのを禁きんじられなかった。そして彼かれは、イエスの指ゆびを見みて、見みたときに恐おそれて倒たおれてしまった。それが主しゅの指ゆびであることを知しったからである。彼かれが得えているものは、もはや信しん仰こうではなかった。なぜなら、彼かれは何なんの疑うたがいもなく知しったからである。

20したがって、彼かれは神かみについてのこの完かん全ぜんな知ち識しきを得えたので、幕まくの内うち側がわを見みるのを禁きんじられなかった。それゆえ、彼かれはイエスにまみえた。そして、イエスは彼かれを教おしえ導みちびかれたのであった。

21さて、主しゅはヤレドの兄きょう弟だいに言いわれた。「見みよ、わたしが肉にくにあってわたしの名なに栄えい光こうを受うける時ときが来くるまで、あなたは見み聞ききしたこれらのことを、世よの人ひと々びとに公おおやけにしてはならない。あなたは見み聞ききしたことを心こころに留とめておき、だれにもそれを知しらせてはならない。

22見みよ、あなたはわたしのもとに来くるとき、これらのことを書かき記しるし、それを封ふうじて、だれもこれらのことを解かい釈しゃくできないようにしなさい。あなたは人ひと々びとが読よめない言げん語ごでこれらのことを書かき記しるすので、だれも読よむことができない。

23見みよ、これらの二つの石いしをあなたに与あたえよう。あなたは書かき記しるすこととともに、これらの石いしも封ふうじなさい。

24見みよ、あなたが書かき記しるす言げん語ごはわたしがすでに乱みだしたので、わたしは自じ分ぶんがふさわしいと思おもうときに、あなたが書かき記しるすこれらのことを、これらの石いしによって人ひと々びとの目めに明あきらかにさせよう。」

25主しゅはこれらの御み言こと葉ばを語かたると、かつてこの世よにいた地ちのすべての民たみと、これからこの世よに来くるすべての民たみをヤレドの兄きょう弟だいにお見みせになった。また主しゅは彼かれらを、地ちの果はてに至いたるまで彼かれに見みせずにはおかれなかった。

26主しゅは以い前ぜんに何なん度どか、もし自じ分ぶんを信しんじるならばあらゆるものを見みせることができる、必かならず見みせると、彼かれに言いっておられた。そこで主しゅは、彼かれに何なに事ごとも見みせずにはおかれなかった。彼かれは、主しゅがあらゆるものを自じ分ぶんに見みせることがおできになることを、知しっていたからである。

27主しゅは彼かれに言いわれた。「これらのことを書かき記しるして封ふうじなさい。わたしは自じ分ぶんがふさわしいと思おもうときに、これらのことを人ひとの子こらに知しらせよう。」

28そして主しゅは彼かれに、彼かれの受うけ取とった二つの石いしも封ふうじて、主しゅがこれらのことを人ひとの子こらに示しめされるときまで、これを示しめしてはならないと命めいじられた。