聖文
ジェロム書1

ジェロム書しょ

第1章

ニーファイ人じんはモーセの律りっ法ぽうを守まもり、キリストの来らい臨りんを待まち望のぞみ、その地ちで栄さかえる。ニーファイ人じんを真しん理りの道みちにとどめるために、多おおくの預よ言げん者しゃが働はたらく。紀き元げん前ぜん約やく三百九十九年ねんから三百六十一年ねんに至いたる。

1さて見みよ、わたしジェロムは、わたしたちの系けい図ずを書かき継つぐようにという父ちちエノスの命めい令れいに従したがって、少すこしの言こと葉ばを書かき記しるす。

2この版はんは小ちいさく、またこれらの事こと柄がらは、わたしたちの同胞はらからであるレーマン人じんに益えきを与あたえるという意い図とをもって書かき記しるされているので、わたしも少すこし書かき記しるす必ひつ要ようがある。しかし、わたしの預よ言げんしたことや、わたしが受うけた啓けい示じについては書かき記しるさない。わたしの先せん祖ぞたちが書かき記しるしてきたこと以い上じょうに、わたしに書かき記しるせることが何なにかあるであろうか。彼かれらは救すくいの計けい画かくを明あきらかにしていないであろうか。明あきらかにしているとわたしはあなたがたに言いう。わたしにはそれで十じゅう分ぶんである。

3見みよ、この民たみの中なかで行おこなう必ひつ要ようのあることは実じつにたくさんある。それは、彼かれらが心こころをかたくなにし、耳みみを傾かたむけようとせず、思おもいをくらまし、強ごう情じょうになっているからである。にもかかわらず、神かみは彼かれらに非ひ常じょうに深ふかい憐あわれみを示しめし、これまでのところ、彼かれらを地ちの面おもてから一いっ掃そうしてはおられない。

4また、民たみが皆みな強ごう情じょうなわけではなく、わたしたちの中なかには啓けい示じを多おおく受うけている者ものが大おお勢ぜいいる。そして、強ごう情じょうにならずに信しん仰こうを抱いだいている者ものは皆みな、その信しん仰こうに応おうじて人ひとの子こらに物もの事ごとを明あきらかにされる聖せいなる御み霊たまと交まじわりを持もっている。

5さて見みよ、すでに二百年ねんが過すぎ去さり、ニーファイの民たみはこの地ちで強つよくなった。彼かれらはモーセの律りっ法ぽうを守まもり、また安あん息そく日にちを主しゅのために聖せいなる日ひとして守まもった。彼かれらはまた、不ふ敬けいな言こと葉ばを口くちにせず、神しん聖せいを汚けがさなかった。そして、国くにの法ほう律りつは非ひ常じょうに厳きびしかった。

6彼かれらは地ちの面おもてに広ひろく散ちらされた。また、レーマン人じんも同どう様ようであった。しかし、ニーファイ人じんに属ぞくする者ものよりも、レーマン人じんの方ほうがはるかにおびただしい数かずで、彼かれらは殺さつ人じんを好このみ、獣けものの血ちをよく飲のんでいた。

7そして彼かれらは、度たび々たびわたしたちニーファイ人じんに攻せめかかって来きた。しかし、わたしたちの王おうや指し導どう者しゃは、主しゅを信しんじる信しん仰こうの篤あつい人ひと々びとであり、また民たみに主しゅの道みちを教おしえていたので、わたしたちはレーマン人じんに立たち向むかい、彼かれらをわたしたちの地ちから一いっ掃そうした。そしてわたしたちは、自じ分ぶんたちの町まちや、そのほかのあらゆる受うけ継つぎの場ば所しょの防ぼう備びを固かためる仕し事ごとに取とりかかった。

8わたしたちは非ひ常じょうに増ふえて、地ちの面おもてに広ひろがり、金きんや銀ぎんや貴き重ちょうな品しな々じな、見み事ごとな造つくりの木もっ工こう品ひんや建たて物ものや機き械かい、それに鉄てつや銅どう、真しん鍮ちゅう、鋼はがねなどを豊ゆたかに持もつようになった。そして、地ちを耕たがやすためにあらゆる道どう具ぐを造つくり、また戦せん争そうの武ぶ器き、まことに、鋭するどいやじりの矢やと矢や筒づつ、投なげ矢やと投なげ槍やりを造つくり、さらに戦せん争そうのためにすべての準じゅん備びを整ととのえた。

9わたしたちがこのようにしてレーマン人じんと戦たたかう準じゅん備びを整ととのえていたので、彼かれらはわたしたちに対たいして栄さかえることはなかった。そして、主しゅがわたしたちの先せん祖ぞに言いわれた、「あなたがたはわたしの命めい令れいを守まもるかぎり地ちに栄さかえる」という主しゅの言こと葉ばが実じっ証しょうされたのである。

10そして主しゅの預よ言げん者しゃたちは、もし民たみが戒いましめを守まもらず、背そむくようになるならば、彼かれらは地ちの面おもてから滅ほろぼし去さられるという神かみの言こと葉ばに従したがって、ニーファイの民たみに強つよい警けい告こくの言こと葉ばを発はっした。

11そして、預よ言げん者しゃや祭さい司しや教きょう師したちは熱ねっ心しんに働はたらき、民たみにも熱ねっ心しんであるよう、あくまでも寛かん容ような心こころで勧すすめた。またモーセの律りっ法ぽうとそれが与あたえられた目もく的てきを彼かれらに教おしえ、さらにメシヤを待まち望のぞみ、あたかもメシヤがすでに来きておられるかのように、将しょう来らい来こられるメシヤを信しんじるよう民たみに勧すすめた。彼かれらはこのようにして民たみを教おしえた。

12そして、そうすることによって、彼かれらは民たみが地ちの面おもてで滅ほろぼされるのを防ふせいだ。彼かれらが言こと葉ばで民たみの心こころを刺し激げきし、絶たえず民たみに悔くい改あらためを促うながしたからである。

13そして、二百三十八年ねんが過すぎ去さり、その間あいだ、多おおくの歳さい月げつが戦せん争そうと争あらそいと不ふ和わの有あり様さまで暮くれた。

14わたしジェロムは、版はんが小ちいさいのでこれ以い上じょう書かき記しるさない。しかし見みよ、わたしの同胞はらからよ、ニーファイのほかの版はんを見みるがよい。見みよ、わたしたちの戦せん争そうの記き録ろくは、王おうたちの書かき記しるしたとおりに、または彼かれらが書かき記しるさせたとおりに、その版はんに刻きざまれているからである。

15わたしは先せん祖ぞたちの命めい令れいどおりにこの版はんが書かき継つがれるように、息子むすこオムナイの手てにこの版はんを渡わたす。