1 また，エノクはその話はなしを続つづけて言いった。「まことに，わたしたちの先せん祖ぞアダムはこれらのことを教おしえました。すると，多おおくの者ものは信しんじて神かみの子ことなりましたが，信しんじないで罪つみの中なかに滅ほろびた者ものも大おお勢ぜいいました。彼かれらは今いま，苦くるしみの中なかで恐おそれながら，火ひのような神かみの激はげしい怒いかりが自じ分ぶんたちに注そそがれるのを待まっています。」

2 そのときから，エノクは預よ言げんし始はじめて，民たみに言いった。「わたしが旅たびの途と中ちゅうに，マフヤという所ところに立たって主しゅに叫さけび求もとめると，天てんから，『あなたは引ひき返かえして，シメオンの山やまに登のぼりなさい』という御み声こえがありました。

3 そこで，わたしは引ひき返かえして，その山やまに登のぼりました。そして，その山やまに立たつと，わたしは天てんが開ひらくのを見みて，栄えい光こうに包つつまれました。

4 わたしは主しゅにまみえました。主しゅはわたしの前まえに立たち，顔かおと顔かおを合あわせて，人ひとが互たがいに語かたり合あうようにわたしと語かたられました。そして，主しゅはわたしに言いわれました。『見みなさい。そうすれば，わたしはあなたにこの世よを多おおくの世せ代だいにわたって見みせよう。』

5 それから，わたしはシュムの谷たにに，まことに天てん幕まくに住すむ多おおくの人ひとを見みました。それはシュムの民たみでした。

6 主しゅは再ふたたびわたしに，『見みなさい』と言いわれました。そこで，わたしが北きたの方ほうを眺ながめると，天てん幕まくに住すむカナンの民たみが見みえました。

7 主しゅはわたしに，『預よ言げんしなさい』と言いわれました。そこで，わたしは預よ言げんして言いいました。『見みよ，大おお勢ぜいのカナンの民たみがシュムの民たみに対たいして陣じん立だてをして出でて行いき，彼かれらを殺ころして，ことごとく滅ほろぼすであろう。そして，カナンの民たみはその地ちで分わかれて，その地ちは実みを結むすばない不ふ毛もうの所ところとなり，カナンの民たみのほかにいかなる民たみもそこに住すむことはない。

8 見みよ，主しゅはひどい暑あつさをもってその地ちをのろわれ，その不ふ毛もうはとこしえに続つづくであろう。』そして，カナンのすべての子こらのうえに暗あん黒こくが及およんだので，彼かれらはすべての民たみの中なかでさげすまれました。

9 また，主しゅはわたしに，『見みなさい』と言いわれました。そこで，わたしが眺ながめると，シャロンの地ちと，エノクの地ちと，オムナーの地ちと，ヘニの地ちと，セムの地ちと，ハネルの地ちと，ハナニハの地ちと，そのすべての住じゅう民みんが見みえました。

10 すると，主しゅはわたしに言いわれました。『この民たみのところへ行いって，「悔くい改あらためよ」と言いいなさい。わたしが出でて行いって，のろいをもって彼かれらを打うち，彼かれらが死しぬことのないためである。』

11 そして主しゅは，御おん父ちちと，恵めぐみと真しん理りに満みちておられる御おん子こと，御おん父ちちと御おん子このことを証あかしされる聖せい霊れいとの御み名なによってバプテスマを施ほどこすようにとの戒いましめをわたしに与あたえられました。」

12 それからエノクは，カナンの民たみを除のぞくすべての民たみに，悔くい改あらためるように呼よびかけ続つづけた。

13 エノクの信しん仰こうは非ひ常じょうに深ふかかったので，彼かれは神かみの民たみを導みちびいたが，敵てきが彼かれらと戦たたかおうとして攻せめて来きた。そこで，彼かれが主しゅの言こと葉ばを語かたると，まことに彼かれの命めいに従したがって，地ちは揺ゆれ動うごき，山やま々やまは逃にげ去さった。水みずの流ながれる川かわはその流ながれを変かえ，ライオンのほえる声こえが荒あれ野のから聞きこえた。そして，すべての民みん族ぞくが大おおいに恐おそれた。それほどエノクの言こと葉ばは力ちから強づよく，また，それほど神かみが彼かれに与あたえられた言こと葉ばの力ちからは大おおいなるものであった。

14 また，海うみの深ふかみから一つの陸りくが出でてきた。神かみの民たみの敵てきは大おおいに恐おそれたので，逃のがれて遠とおく離はなれて立たち，海うみの深ふかみから出でてきた陸りくに上あがった。

15 その地ちの巨きょ人じんたちも遠とおく離はなれて立たった。そして，神かみに逆さからって戦たたかったすべての民たみにのろいが下くだった。

16 そのときから，彼かれらの中なかに戦せん争そうと流りゅう血けつがあった。しかし，主しゅは来きて，主しゅの民たみとともに住すまわれた。そして，彼かれらは義ぎのうちに住すんだ。

17 主しゅへの畏おそれがすべての民みん族ぞくにあった。それほど主しゅの民たみのうえにある主しゅの栄えい光こうは大おおいなるものであった。主しゅはその地ちを祝しゅく福ふくされ，彼かれらは山やま々やまの上うえと高たかい所ところで祝しゅく福ふくされて，まことに栄さかえた。

18 主しゅはその民たみをシオンと呼よばれた。彼かれらが心こころを一つにし，思おもいを一つにし，義ぎのうちに住すんだからである。そして，彼かれらの中なかに貧まずしい者ものはいなかった。

19 エノクは，義ぎをもって神かみの民たみに教おしえを説とき続つづけた。そして，その生しょう涯がいに，彼かれは一つの町まちを建たて，それは聖せいなる都みやこ，すなわちシオンと呼よばれた。

20 さて，エノクは主しゅとともに語かたり，主しゅに言いった。「必かならずや，シオンはとこしえに平へい穏おんに住すむことでしょう。」しかし，主しゅはエノクに言いわれた。「わたしはシオンを祝しゅく福ふくしたが，民たみの残のこりの者ものをのろった。」

21 さて，主しゅはエノクに，地ちに住すむすべての者ものを見みせられた。彼かれはまことに，時ときがたってシオンが天てんに取とり上あげられるのを見みた。また，主しゅはエノクに，「とこしえにわたしの住すまいを見みなさい」と言いわれた。

22 エノクはまた，アダムの子こらである民たみの残のこりの者ものも見みた。彼かれらは，カインの子し孫そんを除のぞくアダムのすべての子し孫そんの混まじり合あった者ものであった。カインの子し孫そんは肌はだが黒くろく，彼かれらの中なかにいるべき場ば所しょがなかったからである。

23 そのシオンが天てんに取とり上あげられた後のち，エノクは，まことに，地ちのすべての民みん族ぞくが彼かれの前まえにあるのを見みた。

24 そして，何なん世せ代だいかが過すぎ，エノクは高たかく上あげられ，まことに，御おん父ちちと人ひとの子この懐ふところにいた。そして，見みよ，サタンの力ちからが地ちの全ぜん面めんにあった。

25 また，彼かれは天てん使したちが天てんから降くだるのを見みた。そして，彼かれは大おおきな声こえが，「災わざわいである。地ちに住すむ者ものは災わざわいである」と告つげるのを聞きいた。

26 また，彼かれはサタンを見みた。サタンはその手てに大おおきな鎖くさりを持もち，それは地ちの全ぜん面めんを闇やみで覆おおった。サタンは見み上あげて笑わらい，その使つかいどもは喜よろこんだ。

27 エノクはまた，天てん使したちが天てんから降くだって，御おん父ちちと御おん子このことを証あかしするのを見みた。聖せい霊れいが多おおくの者ものに降くだられ，彼かれらは天てんの力ちからによってシオンに連つれ去さられた。

28 すると，天てんの神かみが民たみの残のこりの者ものを見みて泣なかれた。エノクはそのことを証あかしして言いった。「どうして天てんが泣なき，雨あめが山やま々やまに降ふり注そそぐようにその涙なみだを流ながすのですか。」

29 また，エノクは主しゅに言いった。「あなたは，永えい遠えんから永えい遠えんにわたって聖せいなる御お方かたであるのに，どうして泣なくことがおできになるのですか。

30 人ひとが地ちの微び粒りゅう子し，まことにこの地ち球きゅうのような幾いく百ひゃく万まんの地ち球きゅうを数かぞえることができたとしても，それはあなたが創そう造ぞうされたものの数かずの始はじめにも至いたりません。あなたのとばりは今いまなお広ひろがっています。それでも，あなたはそこにおられ，あなたの懐ふところはそこにあります。また，あなたは公こう正せいな御お方かたです。とこしえに憐あわれみ深ぶかく，思おもいやりの深ふかい御お方かたです。

31 あなたは御ご自じ分ぶんが創そう造ぞうされたすべてのものの中なかから，永えい遠えんから永えい遠えんにわたって，シオンを御ご自じ分ぶんの懐ふところに取とり去さられました。あなたの御み座ざのある所ところには，ただ平へい安あんと公こう正せいと真しん理りだけがあります。憐あわれみはあなたの前まえを進すすみ，終おわりがありません。どうしてあなたは泣なくことがおできになるのですか。」

32 主しゅはエノクに言いわれた。「これらあなたの兄きょう弟だいたちを見みなさい。彼かれらはわたし自じ身しんの手てで造つくられたものである。わたしは彼かれらを創そう造ぞうした日ひに，彼かれらに知ち識しきを与あたえた。また，エデンの園そので人ひとに選せん択たくの自じ由ゆうを与あたえた。

33 わたしはあなたの兄きょう弟だいたちに語かたって，互たがいに愛あいし合あうように，また父ちちであるわたしを選えらぶようにという戒いましめも与あたえた。ところが見みよ，彼かれらは愛あい情じょうがなく，自じ分ぶんの血けつ族ぞくを憎にくんでいる。

34 わたしの憤いきどおりの火ひは彼かれらに向むかって燃もえている。わたしは激はげしい憤いきどおりをもって，彼かれらに洪こう水ずいを送おくろう。わたしの激はげしい怒いかりが彼かれらに向むかって燃もえているからである。

35 見みよ，わたしは神かみである。聖せいなる人ひととはわたしの名なである。賢けん慮りょの人ひととはわたしの名なであり，無む窮きゅうも永えい遠えんもわたしの名なである。

36 それゆえ，わたしは手てを伸のばして，わたしが造つくったすべての創そう造ぞう物ぶつを手てに取とることができる。また，わたしの目めはそれらを貫つらぬくこともできるが，わたしの手てで造つくられたすべてのものの中なかで，あなたの兄きょう弟だいたちの中なかにあるような大おおきな悪あく事じのあったことはない。

37 しかし見みよ，彼かれらの罪つみはその先せん祖ぞの頭こうべにある。サタンが彼かれらの父ちちとなり，彼かれらの行ゆく末すえは悲ひ惨さんなものとなる。そして，すべての天てんが，まことにわたしの手てで造つくられたすべてのものが，彼かれらのために泣なくであろう。それゆえ，これらが苦くるしむのを見みて，どうして天てんが泣なかないということがあろうか。

38 しかし見みよ，あなたがその目めで見みているこれらの者ものは，洪こう水ずいの中なかで滅ほろびるであろう。見みよ，わたしは彼かれらを締しめ出だす。わたしは彼かれらのために獄ごくを用よう意いしている。

39 また，わたしの選えらんだ者ものがわたしの前まえで嘆たん願がんした。それゆえ，彼かれは彼かれらの罪つみのために苦くるしみを受うける。わたしの選えらんだ者ものがわたしのもとに帰かえる日ひに彼かれらが悔くい改あらためるならば，その日ひまで，彼かれらは苦くるしみの中なかにいるであろう。

40 このゆえに，天てんと，わたしの手てで造つくられたすべてのものは泣なくのである。」

41 そして，主しゅはエノクに語かたり，人ひとの子こらのすべての行おこないをエノクに告つげられた。そこでエノクはそれを知しり，彼かれらの悪あく事じと惨みじめな状じょう態たいを見みて泣なき，その両りょう腕うでを伸のべた。すると，彼かれの心こころは永えい遠えんのように膨ふくれ広ひろがり，その胸むねは悲かなしみに打うたれた。そして，永えい遠えんなるものすべてが揺ゆれ動うごいた。

42 エノクはまた，ノアとその家か族ぞくを見みた。ノアのすべての息むす子こたちの子し孫そんが現げん世せの救すくいを得えるのを，彼かれは見みた。

43 エノクはノアが箱はこ船ぶねを造つくるのを見みた。また，主しゅがそれを見みてほほえみ，御み手ての中なかにそれを保たもたれるのを，エノクは見みた。しかし，悪あく人にんの残のこりの者ものには洪こう水ずいが押おし寄よせ，彼かれらをのみ込こんでしまった。

44 エノクはこれを見みると，心こころに苦くるしみを覚おぼえ，その兄きょう弟だいたちのために泣ないて，天てんに向むかって，「わたしは慰なぐさめられるのを拒こばみます」と言いった。しかし，主しゅはエノクに言いわれた。「心こころを高たかめて喜よろこび，そして見みなさい。」

45 そして，エノクは見みた。すると，ノアから始はじまり，地ちのすべての氏し族ぞくが見みえた。そこで，彼かれは主しゅに叫さけんで言いった。「いつ主しゅの日ひが来くるのでしょうか。いつ義ぎなる御お方かたの血ちが流ながされて，嘆なげき悲かなしむすべての者ものが聖きよめられ，永えい遠えんの命いのちを受うけられるようになるのでしょうか。」

46 主しゅは言いわれた。「それは時ときの中ちゅう間かん，悪あく事じと報ほう復ふくの時じ代だいである。」

47 見みよ，エノクは，人ひとの子こがまことに肉にく体たいを取とって来こられる日ひを見みた。そして，彼かれは心こころから喜よろこんで言いった。「義ぎなる御お方かたが上あげられる。小こ羊ひつじは世よの初はじめからほふられている。信しん仰こうによって，わたしは御おん父ちちの懐ふところにおり，まことに，シオンはわたしとともにある。」

48 それから，エノクは地ちを見みた。すると，地ちの中なかから声こえが聞きこえた。「災わざわいだ。人ひと々びとの母ははであるわたしは，災わざわいだ。わたしの子こ供どもたちの悪あく事じのゆえに，わたしは苦くるしみ，疲つかれている。わたしはいつ安あん息そくを得えて，わたしより出でた汚けがれから清きよめられるのか。わたしの創そう造ぞう主ぬしはいつわたしを聖きよめてくださり，わたしが安あん息そくを得えて，義ぎがしばらくの間あいだわたしの面おもてにあるようにしてくださるのか。」

49 エノクは地ちが嘆なげき悲かなしむのを聞きいたとき，泣ないて，主しゅに叫さけんで言いった。「おお，主しゅよ，あなたは地ちに哀あわれみをかけられないのですか。あなたはノアの子し孫そんを祝しゅく福ふくなさらないのですか。」

50 エノクは主しゅに叫さけび続つづけて言いった。「おお，主しゅよ，地ちが二に度どと洪こう水ずいで覆おおわれることのないように，ノアとその子し孫そんを憐あわれんでくださるよう，わたしはあなたの独ひとり子ご，すなわちイエス・キリストの御み名なによって願ねがい求もとめます。」

51 そこで，主しゅはそれに応おうじないではいられなかった。そして，主しゅはエノクに聖せい約やくし，洪こう水ずいをとどめることと，ノアの子し孫そんに呼よびかけることを彼かれに誓ちかって約やく束そくされた。

52 そして，主しゅは，大だい地ちのあるかぎり，彼かれの子し孫そんの残のこりの者ものがいつでもすべての民みん族ぞくの中なかに見みいだされるという不ふ変へんの定さだめを出だされた。

53 そして，主しゅは言いわれた。「子し孫そんからメシヤが出でる者ものは，幸さいわいである。彼かれは，『わたしはメシヤであり，シオンの王おうであり，永えい遠えんのように広ひろい天てんの岩いわである。だれでも門もんを入はいり，わたしによって登のぼる者ものは，決けっして落おちることがない。それゆえ，わたしが語かたった者ものたちは，幸さいわいである。彼かれらは永えい遠えんの喜よろこびの歌うたを歌うたいながら来くるからである』と言いう。」

54 さらに，エノクは主しゅに叫さけんで言いった。「人ひとの子こが肉にく体たいを取とって来こられるとき，地ちは安あん息そくを得えるのでしょうか。どうか，これらのことをわたしにお示しめしください。」

55 すると，主しゅはエノクに，「見みなさい」と言いわれた。そこで，彼かれが眺ながめると，人ひとの習ならわしに従したがって人ひとの子こが十じゅう字じ架かに上あげられるのが見みえた。

56 また，彼かれは大おおきな声こえを聞きいた。天てんが覆おおわれ，神かみが創そう造ぞうされたすべてのものが嘆なげき悲かなしみ，地ちがうめき，もろもろの岩いわが裂さけた。また，聖せい徒とたちがよみがえって，人ひとの子この右みぎにおいて栄えい光こうの冠かんむりを受うけた。

57 獄ごくにいた霊れいたちの多おおくが出でて来きて，神かみの右みぎに立たった。そして，残のこりの者ものは，大おおいなる日ひの裁さばきまで暗くら闇やみの鎖くさりにつながれていた。

58 そこで再ふたたび，エノクは泣なき，主しゅに叫さけんで言いった。「地ちはいつ安あん息そくを得えるのでしょうか。」

59 するとエノクは，人ひとの子こが御おん父ちちのもとに昇のぼって行いかれるのを見みた。そこで，彼かれは主しゅに呼よびかけて言いった。「あなたは再ふたたび地ち上じょうに来こられないのでしょうか。あなたは神かみであられ，わたしはあなたを知しっており，あなたはわたしに誓ちかいをなし，あなたの独ひとり子ごの名なによって尋たずねるようにわたしに命めいじられました。あなたはわたしを造つくり，あなたの御み座ざに至いたる権けん利りを，わたし自じ身しんによらず，あなた御ご自じ身しんの恵めぐみによってわたしに与あたえてくださいました。それでわたしは，あなたが再ふたたび地ち上じょうに来こられるかどうかお尋たずねするのです。」

60 すると，主しゅはエノクに言いわれた。「わたしが生いきているように，まことにそのように，わたしは終おわりの時ときに，すなわち悪あく事じと報ほう復ふくの時じ代だいに来きて，わたしがノアの子し孫そんに関かんしてあなたに立たてた誓ちかいを果はたそう。

61 地ちが安あん息そくを得える日ひが来くる。しかし，その日ひの前まえに，天てんは暗くらくなり，暗あん黒こくの幕まくが地ちを覆おおうであろう。天てんが震ふるえ，地ちも震ふるえるであろう。そして，ひどい艱かん難なんが人ひとの子こらの中なかにあるが，わたしは自じ分ぶんの民たみを守まもろう。

62 また，わたしは天てんから義ぎを下くだそう。また，地ちから真しん理りを出だして，わたしの独ひとり子ごと，死し者しゃの中なかからの独ひとり子ごの復ふっ活かつと，またすべての人ひとの復ふっ活かつについて証あかししよう。そして，わたしは義ぎと真しん理りが洪こう水ずいのごとくに速すみやかに地ちに広ひろまるようにし，わたしが備そなえる場ば所しょ，すなわち聖せいなる都みやこに地ちの四し方ほうからわたしの選せん民みんを集あつめよう。それは，わたしの民たみがその腰こしに帯おびを締しめ，わたしの来らい臨りんの時ときを待まち望のぞめるようにするためである。わたしの幕まく屋やはそこにあり，そこはシオン，すなわち新しんエルサレムと呼よばれるであろう。」

63 また，主しゅはエノクに言いわれた。「そのとき，あなたとあなたの町まちのすべての者ものはそこで彼かれらに会あい，わたしたちは彼かれらを懐ふところに迎むかえ入いれ，彼かれらはわたしたちを見みるであろう。そして，わたしたちは彼かれらの首くびを抱だき，彼かれらはわたしたちの首くびを抱だいて，わたしたちは互たがいに口くちづけするであろう。

64 わたしの住すまいはそこにある。それは，わたしが造つくったすべての創そう造ぞう物ぶつの中なかから出でて来くるシオンである。そして，千年ねんの間あいだ，地ちは安あん息そくを得えるであろう。」

65 それからエノクは，人ひとの子こが千年ねんの間あいだ地ち上じょうで義ぎのうちに住すむために，終おわりの時ときに来こられる日ひを見みた。

66 しかし，その日ひの前まえにひどい艱かん難なんが悪あく人にんの中なかにあるのを，彼かれは見みた。彼かれはまた海うみも見みたが，それは荒あれていた。そして，人ひと々びとは気き落おちして，悪あく人にんに下くだる全ぜん能のうの神かみの裁さばきを恐おそれながら待まっていた。

67 主しゅはエノクに，まことに世よの終おわりに至いたるまですべてのことを示しめされた。そして，彼かれは義ぎ人じんの日ひ，彼かれらの贖あがないの時ときを見みて，喜よろこびに満みたされた。

68 エノクの生しょう涯がいにおけるシオンの時じ代だいは，合あわせて三百六十五年ねんであった。

69 エノクとそのすべての民たみは神かみとともに歩あゆみ，彼かれはシオンの中なかに住すんだ。それから，シオンはなくなった。神かみが御ご自じ身しんの懐ふところにそれを迎むかえ入いれられたからである。そのことから，「シオンは消きえうせた」という言こと葉ばが広ひろまった。