エリックのためにいのることをわすれないで
このお話を書いた人は,アメリカ合衆国ネバダ州に住んでいます。
「すべての人は,どんな人生を送るか,どんな人になるかを自由に選べます」(『賛美歌』英文,240)
カリの家族は,家族のいのりをするために,ソファのそばにひざまずきました。全員がけいけんにうでを組みました。お父さんは,カリの妹のリブに,いのってくれるようにたのみました。
「たくさんの祝福を天のお父様に感謝することをわすれないでね」とお父さんがリブに言いました。
「それから,エリックのためにいのることもわすれないでね」とお母さんが付け加えました。お母さんはいつも,エリックのためにいのることを思い出させてくれました。
エリックはカリのお兄ちゃんです。エリックが大学に行く前,エリックとカリはとても仲良しでした。お兄ちゃんといっしょにした,たくさんの楽しいことが,とてもなつかしく思えました。
2,3か月前,エリックはお父さんとお母さんに,自分はもう教会をやめたいと言ってきました。カリも家族もおどろき,悲しみました。それで毎晩エリックのためにいのり始めたのです。エリックがせいれいを感じて,教会に戻りたいと思ってくれるようにいのることもありました。お父さんは,エリックの考えがすっきりとして,よい選びができるようにいのりました。お母さんはよく,エリックが信頼している人から,正しい道を見いだせるように助けてもらえるようにいのりました。ずっとずっといのり続けた後で,カリは,少し怒りの気持ちがわいてくるのをおさえられなくなってきました。なぜ天のお父様は,エリックを教会に戻してくださらないのでしょうか。
リブがおいのりをしようと口を開いたとき,とうとう,カリは気持ちをおさえ切れずに,「天のお父様はどうしてわたしたちのおいのりを聞いてくださらないの」とさけんでしまいました。みんなおどろいてカリを見ましたが,カリはあまりに落ち込んでいて,そんなことはもうどうでもよくなっていました。少しの間,だれも何も言いませんでした。
「カリ」とお父さんが言いました。「今日学校から帰ったとき,かばんを片付けたかな?」
「えっ?」カリは,不思議に思って聞きました。かばんと何の関係があるというのでしょう。カリが玄関ドアの方を見ると,カリのかばんはリブのかばんの横にかけられておらず,壁のところに放り出してありました。「いいえ,……ごめんなさい。」
「お母さんは,壁にかけるように声をかけただろう?」
「うん」と,カリは答えました。カリは自分のひざを見つめていました。
「お母さんはよく,かばんをかけるように声をかけているね。」
「そうね。」カリはぼそぼそとした声で言いました。カリはまだ,お父さんが何を言おうとしているのか分かりませんでした。お父さんは,カリの質問をちゃんと受け止めていないのでしょうか。
「エリックのためにいのるとき,天のお父様は確かに毎回わたしたちのいのりにこたえてくださるとお父さんは知っているよ。問題はね,今はエリックが聞いていないのかもしれないっていうことさ。エリックは,聖霊に聞き従うかどうか自分で選べるんだ。カリも,かばんのことを思い出させてくれるお母さんの言葉に聞き従うかどうかを選べるのと同じようにね。でも,カリはこれから,お母さんからかばんをかけるように言われたら,いつも無視するつもりかな?」
「ううん,そうじゃないと思うわ」とカリは言いました。
「いつかは聞いてくれるわよね。」お母さんが,カリにウィンクしながら言いました。カリはにっこりしました。
「それと同じように,いつかエリックも聞いてくれるかもね」とカリが言うと,
「そのとおりよ」と,お母さんが言いました。「せいれいに聞き従うことは,少しずつ身につけていくわざなのよ。たぶんエリックは,まだそのわざを身につけていないのね。」カリは,少し気分がよくなりました。
リブがいのるとき,みんな頭を下げました。エリックがせいれいに聞き従えるようになるように,いのりました。リブがいのっているとき,カリは平安で温かい気持ちがしました。天のお父様はいのりを聞いてくださっていると分かりました。リブが,家族が受けているしゅくふくを一つ一つあげているとき,カリはもう一つのしゅくふくに感謝したいと思いました。もっといのりについて理解できるようになったということです。
いのりが終わったとき,カリは天のお父様がエリックのことをわすれてはおられないことを知りました。そして,天のお父様は自分のこともおわすれにならないことを知りました。