2016年
自殺について理解する—サインと予防
脚注

Hide Footnotes

テーマ

自殺について理解する—サインと予防

Rainy day on a pier

写真© iStock/Thinkstock

ケビンが16歳のとき,両親は離婚しました。同じ頃に,彼は,それまで気分を安定させる助けになっていた抗てんかん薬を飲むのをやめました。そして双極性障害(躁うつ病)があることを知らないまま,被害妄想,支障を来す躁状態,重度のうつ状態を経験するようになりました。投薬治療は助けになっているようには思われませんでした。やがてもう全てに対して疲れきってしまい,誰にも知らせずに命を絶つことにしました。

ケビンは命を絶とうとした日のことをこう語っています。「わたしは泣いていました。本当に心身共に疲れ果てていました。誰か,とにかく誰でもいいから,『大丈夫ですか』と声を掛けてほしいと思いながら,ただ人々を見ていました。その望みと同じくらい強く,〔頭の中には〕こんな声が聞こえていました。『おまえなんか死んでしまえ。』……その間ずっとわたしは〔その声に負けて命を〕絶たないでくれと自分自身に懇願しましたが,その声はあまりにも強くて,もうあらがうことはできませんでした。」1

悲劇的なことに,彼の苦悩に気づいた人は一人もいませんでした。彼は自分のことを気に掛けてくれる人は誰もいないと思い込み,自殺を図りました。—ところが,奇跡的に生き延びたのでした。

彼の圧倒されるような苦悩と,必死に助けを求める心の叫びを,その一部だけでも感じることができるでしょうか。

自殺に傾いて苦しんでいる人にとっても,残される家族にとっても,自殺は,現世における最も困難な試練の一つです。十二使徒定員会のM・ラッセル・バラード長老は次のように述べています。「わたしが思うに,愛する人が自ら命を絶つことほど家族にとってつらいことはありません。自殺は家族にとって悲惨な経験です。」2この試練が深刻なものであることを考慮し,以下について考えてみたいと思います。(1)自殺について分かっていること。これには,自殺のサインと予防のためにわたしたちができることを含みます。(2)残された家族と周りのコミュニティーができること。(3)絶望しないように,希望を増しキリストを信じる信仰を深めるために全ての人が行う必要のあること。

自殺について理解する

全世界で毎年80万人以上が自ら命を絶っています。3つまり,40秒ごとに一人が命を絶っていることになります。実数はもっと多いと思われます。なぜなら,自殺はデリケートな問題で,自殺が違法とされる国もあり,そのために実際より少なく報告されているからです。15歳から29歳までの死因の第2位が自殺です。ほとんどの国で,自殺率の最も高いのが70歳以上の人々です。直接か間接かを問わず,自殺はわたしたちの社会に広く影響を及ぼします。

自殺のサイン

人生の困難がわたしたちの対処能力を超えたものであると思われる場合,わたしたちは極度なストレスを経験することがあります。精神的苦悩に耐えられないと感じるとき,人の判断力は鈍り,まるで死が唯一の選択肢であるかのごとく考えるようになることがあります。誰からも助けを得られないと感じるかもしれません。すると社会的に孤立し,さらに苦悩が増し,行き詰まって希望がないと強く感じるようになり,ついに自殺が唯一の選択肢と考えるようになることがあります。

以下の重大なサインのどれかを示す人がいる場合,4わたしたちは直ちに精神医療従事者,あるいは警察官など緊急対応のできる人の支援を得るようにしなければなりません。

  • 自傷あるいは自殺をすると話している。

  • 自殺する方法や手段を探している。

  • 死や死ぬこと,自殺について語ったり書いたりしている。

以下のサインは緊急性が高くないように見えるかもしれませんが,いずれかのサインを示している人には手を差し伸べ,その人のために助けを求めるのをためらってはなりません。

  • 絶望感や,生きる目的の喪失感を口にしている。

  • 激しい怒りをあらわにしている,あるいは復讐を企てている。

  • やけを起こしている。

  • 追い詰められていると感じている。

  • 飲酒や薬物使用の頻度が増している。

  • 友人や家族,社会から引きこもっている。

  • 不安や動揺を感じている,あるいは気分の変動が著しい。

  • 眠れなくて苦しんでいる,あるいはいつも寝ている。

  • 自分は他の人々にとって重荷だと感じている。

自殺しようとする人が皆,自殺の意図を伝えてくれるわけではありませんが,大多数の人はこのようなサインを示してくれます。ですから,これらのサインを真剣に捉えてください。

たとえ専門家の助けをすぐに得られないとしても,心から思いやる友人や家族の力についてはいくら強調してもしすぎることはありません。

予防

Hands

自殺の恐れのある人がいる場合,家族や友人が重要な役割を果たします。アルマが教えているように,わたしたちは「重荷が軽くなるように,互いに重荷を負い合〔い〕……悲しむ者とともに悲しみ,慰めの要る者を慰め」なければなりません(モーサヤ18:8,9)。

家族と友人が助けになれる事柄が幾つかあります。

愛をもって手を差し伸べ,耳を傾ける。バラード長老が忠告しているように,「苦闘している人に差し伸べる愛の腕以上に力強いものはありません。」5十二使徒定員会のデール・G・レンランド長老はこう述べています。「天の御父の目を通して人々を見なければ〔なりません。〕そうして初めて,救い主が御父の子らに対して抱いておられる思いやりに満ちた気遣いを感じ取ることができます。……このように視点が広がると,人の落胆や恐れ,心の痛みを敏感に感じ取れるようになります。」6

具体的な事柄について助ける。その人が自分の安全や基本的な必要に影響を及ぼすような危機を経験している場合,具体的な支援を行うことを申し出てください。しかし,それを受け入れるかどうかを選ぶのはその人自身です。例えば,職を失ったことで自殺を考えている人には,就職先を見つける助けをすることで選択肢が増え,行き詰まり感を打破する助けになります。

自殺を考えていないかどうか尋ねる。誰かが悩み苦しんでいて,自殺のサインが心配であれば,自殺を考えていないかどうかその人に尋ねてください。尋ねることに気が引けるかもしれません。しかし,自殺を考えていないか率直に尋ねてみることが一番良いでしょう。その一言が,その人が心を開いて悩みや心配を話すきっかけになるかもしれません。

例えば,次のように尋ねることができます。「それは誰にとっても抱えきれないくらい大変なことだと思います。もしかすると自殺を考えていませんか?」あるいは,「それだけ苦痛を経験されていると,自殺を考えられているのではないかと心配しています。」自殺の恐れがなければ,おそらくそう答えてくれるでしょう。

自殺を考えていることを話してくれないと感じたら,どうすればよいか知るために,御霊の促しに注意を払ってください。心を開いてくれるまで一緒にいるだけでよいという促しを感じるかもしれません。

その人と一緒にいて,他の人から助けを得る。ある人が自殺を考えていると知らせてくれたら,その人と一緒にいて,何に悩んでいるのか話してもらうとよいでしょう。いつどのような方法で自殺をするつもりなのか打ち明けてくれたら,緊急用ホットライン,または精神科救急窓口にその人が連絡できるように助けてください。

自殺に対する反応

サインを示すかどうかにかかわらず,実際に自分の命を絶つ人がいます。愛する人の自殺という衝撃的な経験をすると,残された家族や友人は,しばしば深く,強烈で,複雑な悲嘆を経験します。以下のような反応が含まれます—

  • 恥と不名誉感

  • ショックと不信感

  • 怒り,安堵,罪悪感

  • 死因を隠す

  • 社会的孤立と家族関係の崩壊

  • 自殺予防の積極的な働きかけと過剰なほどの関与

  • 何としても理由を知りたいという思い

  • 見捨てられ拒まれたという気持ち

  • 故人,自分,他の人,神を責める気持ち

  • 自殺したいという思いと自己破壊的な気持ちの高まり

  • 祭日や故人の記念日に増すストレス7

残された家族と周りのコミュニティーが行えること

Sitting on a bench

裁かないようにする。自殺は深刻な問題ですが,バラード長老は次のことも思い起こさせています。「明らかにわたしたちは,自殺を取り巻くあらゆる事情を完全に把握することはできません。その詳細な内容は主のみが御存じであり,地上におけるわたしたちの行動をお裁きになるのは主なのです。 主がわたしたちを裁かれるときには,あらゆる点を考慮されることでしょう。遺伝的な要素や体質,精神状態,知的能力,これまでに受けた教育,先祖の言い伝え,健康状態などです。」8

各人に特有の深い悲しみの過程があることを念頭に置き,それに配慮する。故人との関係は人によって異なるため,その悲しみの体験はさまざまです。ですから,一人一人が経験する悲嘆を受け入れ,それに配慮してください。

愛する人が亡くなると,強い感情に,実に抑え難い感情に圧倒されることがあります。しかし,深い悲しみを感じるからといって,信仰が足りないということではありません。救い主はこう述べておられます。「あなたは死ぬ者を失うことで涙を流すほどに,……ともに愛をもって生活するようにしなければならない。」(教義と聖約42:45)悲嘆は,故人を愛しているしるしであり,その関係がどれほど大切なのかのしるしでもあります。

助けを求める。深く悲しむとき,諸事に圧倒されるように感じることがあります。助けを求めることにより,あなたを愛し,あなたに仕える神聖な機会を他の人々に与えることができます。助けてもらうことにより,あなただけでなく,彼らにも癒やしと強さをもたらすことができるのです。

つながりを保つ。独りで嘆き悲しみ,孤立する人がいるので,あなたの家族や友人とのつながりを大切にしてください。悲しんでいる家族や親族,友人に定期的に手を差し伸べてください。自分からは助けを求めてこないかもしれないので,自ら支援を申し出てください。

主に頼る。最後に,救い主は癒やしと平安の源です。「主の贖罪は,……死すべき状態の重荷を負う強さを与えるために,死すべき状態の人間の弱さを全て経験された御方に助けを請う機会をも提供してくれるのです。主はわたしたちの苦痛を御存じであり,わたしたちを助けてくださいます。良いサマリヤ人のように,主はわたしたちが道端で傷ついているのを見つけると,傷に包帯をし,介抱してくださるでしょう(ルカ10:34参照)。」9

自分の務めを果たそうとするとき,わたしたちは皆,主イエス・キリストと主の贖罪に全面的に頼る必要があることを認めましょう。それを謙虚に認識しながら,苦しんでいる家族と隣人を理解し,愛をもって手を差し伸べ,ともに救い主を信じる信仰と救い主への信頼を増し加えるように努めてください。救い主はやがて戻って来られ,「人の目から涙を全くぬぐいとって下さ〔います。〕」そして,「もはや,死もなく,悲しみも,叫びも,痛みもない」世となります(黙示21:4)。