1 さて，モロナイはこの手て紙がみを受うけ取とると，アモロンが彼かれ自じ身しんの^①欺ぎ瞞まんをよくよく承しょう知ちしているのを知しり，またニーファイの民たみと戦せん争そうをするのが正せい当とうな動どう機きによるものではないことも承しょう知ちしているのを知しり，ますます怒いかった。

2 そして，彼かれは言いった。「見みよ，わたしが手て紙がみの中なかで述のべたように，もしアモロンが彼かれのもくろみを捨すてなければ，わたしは彼かれと捕ほ虜りょの交こう換かんをしない。彼かれがこれまで得えてきた力ちから以い上じょうに大おおきな力ちからを持もつことを，彼かれに認みとめるつもりはないからである。

3 見みよ，わたしは，レーマン人じんが捕ほ虜りょにしたわたしの民たみをどこで見み張はっているのか，その場ば所しょをよく知しっている。手て紙がみに記しるしたわたしの要よう求きゅうをアモロンが認みとめようとしないので，見みよ，わたしは，自じ分ぶんの言こと葉ばのとおりに彼かれに行おこなおう。まことに，彼かれらが和わ平へいを求もとめるまで彼かれらの中なかに死しを求もとめよう。」

4 さて，モロナイはこの言こと葉ばを語かたり終おえると，自じ分ぶんの兵へいの中なかにレーマンの子し孫そんに当あたる者ものがいるかもしれないと思おもい，兵へいの中なかを調しらべさせた。

5 そして，レーマンという名なの者ものが見みつかった。この者ものはアマリキヤによって殺ころされた王おうの^①僕しもべの一人ひとりであった。

6 そこでモロナイは，レーマンと自じ分ぶんの少しょう数すうの兵へいを，ニーファイ人じんを見み張はっている番ばん兵ぺいたちのところへ行いかせた。

7 ニーファイ人じんはギドの町まちに囚とらわれていたので，モロナイはレーマンを任にん命めいし，少しょう数すうの兵へいを彼かれとともに行いかせた。

8 そして，夜よるになってレーマンがニーファイ人じんを見み張はっている番ばん兵ぺいたちのもとへ行いくと，見みよ，彼かれらはレーマンがやって来くるのを見みて，彼かれに呼よびかけた。そこで，レーマンは彼かれらに言いった。「怖こわがるな。見みよ，わたしはレーマン人じんだ。見みよ，我われ々われはニーファイ人じんのもとから逃にげ出だして来きた。ニーファイ人じんは今いま眠ねむっている。だから見みよ，ぶどう酒しゅを手てに入いれて持もって来きた。」

9 さて，レーマン人じんはこの言こと葉ばを聞きくと，喜よろこんで彼かれを迎むかえ入いれ，「ぶどう酒しゅを我われ々われにも飲のませてくれ。我われ々われは疲つかれているので，このようにおまえがぶどう酒しゅを持もって来きてくれたことはうれしいことだ」と彼かれに言いった。

10 ところがレーマンは，「ニーファイ人じんに向むかって戦たたかいに出でるまで我われ々われのぶどう酒しゅは取とっておこう」と彼かれらに言いった。しかしこの言こと葉ばは，そのぶどう酒しゅを飲のみたいという彼かれらの気き持もちを募つのらせるばかりであった。

11 そして，彼かれらは言いった。「疲つかれているから，今いまそのぶどう酒しゅを飲のもう。そのうちに配はい給きゅうのぶどう酒しゅが来くる。ニーファイ人じんに向むかって行いく力ちからはそれでつけることにしよう。」

12 そこで，レーマンは彼かれらに，「思おもうとおりにするがよい」と言いった。

13 そこで彼かれらは，ぶどう酒しゅをふんだんに飲のんだ。しかも，彼かれらの味あじの好このみに合あっていたので，彼かれらはなおさらふんだんに飲のんだ。ところが，そのぶどう酒しゅは濃こく造つくられていたので，強つよかった。

14 そして彼かれらは，飲のむといい気き持もちになり，やがて全ぜん員いん酔よっ払ぱらってしまった。

15 さて，レーマンと兵へいたちは，番ばん兵ぺいたちが全ぜん員いん酔よってぐっすり眠ねむっているのを見みて，モロナイのもとに引ひき返かえして事ことの次し第だいをすべて報ほう告こくした。

16 これはモロナイの計けい画かくのとおりであり，モロナイは兵へいたちに武ぶ器きを持もたせて準じゅん備びを整ととのえていた。そして，レーマン人じんが酔よって熟じゅく睡すいしている間あいだに，ギドの町まちへ行いって町まちに武ぶ器きを投なげ込こみ，捕ほ虜りょたちに渡わたした。そこで捕ほ虜りょは皆みな武ぶ装そうした。

17 モロナイが捕ほ虜りょを全ぜん員いん武ぶ装そうさせたとき，武ぶ器きを使つかえる者ものは，女おんなや子こ供どもに至いたるまで全ぜん員いんが武ぶ装そうした。これらのことはすべてまったく静しずかに行おこなわれた。

18 しかし，たとえレーマン人じんを起おこしたとしても，見みよ，レーマン人じんは酔よっていたので，ニーファイ人じんは彼かれらを殺ころすことができたであろう。

19 しかし見みよ，それはモロナイが願ねがっていたことではなかった。彼かれは殺さつ人じんや^①流りゅう血けつを喜よろこばず，自じ分ぶんの民たみを滅めつ亡ぼうから救すくうことを喜よろこびとしていた。そして彼かれは，不ふ当とうな行こう為いを働はたらくことができなかったので，レーマン人じんが酔よっている間あいだに彼かれらを襲おそって殺ころすことは望のぞまなかった。

20 それでも彼かれは，自じ分ぶんの願ねがいを達たっしていた。彼かれは町まちの城じょう壁へきの内うち側がわにいる捕ほ虜りょのニーファイ人じんを武ぶ装そうさせ，城じょう壁へき内ないの町まちを手てに入いれる力ちからを彼かれらに与あたえていたからである。

21 それから彼かれは，自じ分ぶんの率ひきいる兵へいを彼かれらから一いっ歩ぽ退しりぞかせて，レーマン人じんの軍ぐん隊たいを包ほう囲いさせた。

22 さて見みよ，これは夜や間かんに行おこなわれたので，朝あさレーマン人じんが目めを覚さまして見みると，外そと側がわはニーファイ人じんが包ほう囲いしており，内うち側がわでは捕ほ虜りょたちが武ぶ装そうしていた。

23 このようにして彼かれらは，ニーファイ人じんが自じ分ぶんたちを打うち負まかす力ちからを得えているのを知しった。このような状じょう況きょうの中なかで，彼かれらはニーファイ人じんと戦たたかうのは得とく策さくではないのを知しったので，彼かれらの連れん隊たい長ちょうたちは武ぶ器きの引ひき渡わたしを命めいじた。そこで彼かれらは，武ぶ器きを持もって来きてニーファイ人じんの足あしもとに投なげ出だし，連れん隊たい長ちょうたちは哀あわれみを請こうた。

24 さて見みよ，これはモロナイが願ねがっていたことであった。そこでモロナイは，彼かれらを捕ほ虜りょにして，その町まちを占せん領りょうし，捕ほ虜りょになっていたニーファイ人じんを全ぜん員いん解かい放ほうした。そしてこれらの人ひと々びとは，モロナイの軍ぐん隊たいに加くわわり，彼かれの軍ぐん隊たいにとって大おおきな力ちからとなった。

25 そして，彼かれは捕ほ虜りょにしたレーマン人じんに，ギドの町まちの周しゅう囲いの防ぼう備びを強きょう固こにする^①仕し事ごとを始はじめさせた。

26 そして彼かれは，自じ分ぶんの望のぞみどおりにギドの町まちの防ぼう備びを固かため終おえると，捕ほ虜りょたちをバウンティフルの町まちへ連つれて行いかせた。そして，彼かれはまた非ひ常じょうに強きょう力りょくな軍ぐん隊たいでその町まちを守まもった。

27 そして，レーマン人じんの陰いん謀ぼうが何なん度どかあったにもかかわらず，彼かれらはそれまでに捕とらえたすべての捕ほ虜りょを見み張はって守まもり，また取とり返かえしたすべての土と地ちを守まもり通とおし，優ゆう位いを保たもち続つづけた。

28 そしてニーファイ人じんは，再ふたたび勝しょう利りを収おさめるようになり，自じ分ぶんたちの権けん利りと特とっ権けんを取とり戻もどし始はじめた。

29 レーマン人じんは何なん度ども夜よるに紛まぎれてニーファイ人じんを包ほう囲いしようとしたが，その度たびに彼かれらは，多おおくの者ものを捕ほ虜りょとして失うしなった。

30 また彼かれらは，ニーファイ人じんにぶどう酒しゅを飲のませて毒どくで殺ころすことや，酔よわせて殺ころすことを何なん度ども企くわだてた。

31 しかし見みよ，ニーファイ人じんは，この苦く難なんのときにすぐ主しゅなる神かみを^①思おもい起おこした。そのため，レーマン人じんのわなにかからなかった。彼かれらはまず捕ほ虜りょのレーマン人じんの幾いく人にんかに飲のませてからでなければ，レーマン人じんのぶどう酒しゅを飲のもうとはしなかったのである。

32 彼かれらはこのように用心ようじんしたので，彼かれらの中なかには毒どくを飲のまされた者ものは一人ひとりもいなかった。もしぶどう酒しゅがレーマン人じんを中ちゅう毒どくさせるようであれば，それはニーファイ人じんをも中ちゅう毒どくさせるからである。このように，彼かれらはレーマン人じんの酒さけをすべて試ためしたのであった。

33 さて，モロナイは，モリアントンの町まちを攻こう撃げきするために様さま々ざまな準じゅん備びを整ととのえる必ひつ要ようがあった。見みよ，レーマン人じんが自みずから骨ほね折おってモリアントンの町まちの防ぼう備びを固かため，それが非ひ常じょうに堅けん固ごなとりでとなっていたからである。

34 そして彼かれらは，絶たえずその町まちに新あらたな軍ぐん隊たいと食しょく糧りょうを運はこび込こんでいた。

35 このようにして，ニーファイの民たみのさばきつかさの統とう治ち第だい二十九年ねんが終おわった。