2016
撃ってはなりません
2016年4月


末日聖徒の声

撃ってはなりません

匿名

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police officer on a bridge

ボブとわたしはパトカーの中に座り,その通りで何らかの動きがあるのを待っていました。警察の無線警戒で問題となっていた車を発見後,わたしたちは2時間前から張り込みを始めていました。

警報で「強盗事件発生」の連絡を受けていたのです。「武器を持った男性2名。先ほど,オレンジ色の車に乗っているところが目撃される。目撃者の証言によると,凶暴で,即,発砲する危険あり。」

同地区では,最近,武装強盗事件が立て続けに発生していました。警察による最善の努力もむなしく,強盗たちは逃亡を繰り返していました。暗い通りに面する家から出て来た二人組がオレンジ色の車に飛び乗る姿を見たとき,すぐにそのことが頭に浮かびました。二人はこちらに向かって進んで来ました。

「応援を求む」わたしはそう伝えました。「容疑者,現在地から北へ移動中。」

ボブとわたしが追尾する中,覆面パトカーで応援に駆けつけた二人の私服刑事は,問題の車の前方を走りました。車3台が橋に入った後,応援の車が突如,オレンジ色の車の前で,橋を横切るように止まり,わたしたちは問題の車の後ろに,ちょうど容疑者を挟み撃ちにするような形で止まりました。それとほとんど時を同じくして,問題の車は停車し,容疑者の二人はさっと身を伏せました。

「頭に手を置いて,車から出て来い!」わたしは,自分の車から出ると,そう命じました。何の反応もありませんでした。

いつでも発砲できる状態で,もう一度,命じました。「頭に手を置いて,車から出て来るんだ!今すぐだ!」

突然,運転をしていた人物が,起き上がり,わたしの方を向きました。手に持った金属のようなものが光るのが見えました。

警察官としての訓練と常識から,わたしは自分の命を守るために引き金を引こうとしました。しかし,その緊張の瞬間に,声が聞こえたのです。穏やかではありましたが,権威ある力強い声でした。「撃ってはなりません!」

いつ打たれてもおかしくない状況でしたが,わたしは車の中の男が先に発砲するのを待ちました。しかし,男は両手を挙げ,頭上に銃のようなものを掲げ,それから両手を膝の上に降ろしました。

「止まれ!」そう言いながら,わたしは車の方に駆け寄りました。「動くな!」

わたしたちの動きはテレビ番組のようでした。冷酷な犯罪人と思っていた車の中の二人が,実は,おびえた若い女性たちだと分かるまでは。銃と思っていたのは,ただのシートベルトの留め具だったのです。

彼女たちはボーイフレンドにこの車を貸していたということが後で分かりました。彼らがどういう連中か知らなかったのです。

「キャル,君はもう終わりだと思ったよ。」あとでボブはわたしにそう言いました。「自分も危うく発砲するところだったけれど,どうしてそうしなかったのか分からない。」

覆面パトカーに乗っていた二人の刑事も,同じようなことを言いました。ただ,あの声を聞いたのはわたしだけでした。わたしは知っています。天の力以外に,二人の女性を死から救い,また4人の警察官を悲劇的な過ちを犯さないよう助けられたものはありませんでした。わたしはこの経験を通して,天の御父は,わたしたちの益のために,介入することがおできになるし,実際そうされることがあるという確かな知識を得ました。