2010–2019
主の道にかないて助けをなす
2011年10月


主の道にかないて助けをなす

教会の福祉の原則は単なる良いアイデアではありません。神が明らかにされた真理であり,困っている人を助けるための主の方法なのです。

65年前,第二次世界大戦の直後に,わたしは教会の福祉プログラムがもたらす祝福を身をもって体験しました。幼い子供でしたが,小麦のおかゆと一緒に食べた缶詰の桃の甘い味や,寄付された衣類の独特なにおいは今でも覚えています。それらは思いやりにあふれた合衆国の教会員から戦後のドイツの聖徒たちに送られたものでした。窮状にあったわたしたちに対する合衆国の会員による愛と優しさの行いを,わたしはいつまでも覚えていることでしょう。

そうした個人的な経験と,霊感に満ちた福祉計画が75周年を迎えたことから,貧しい人や助けの必要な人を世話し,自立し,同胞に仕えることについての基本原則をもう一度よく考えてみたいと思います。

わたしたちの信仰の根底にあるもの

時々,わたしたちは福祉を単なる福音のテーマの一つ,福音という木の数ある枝の一つと考えることがあります。しかし主の計画においては,福祉の原則に真剣に向き合う決意こそ,主への信仰と献身の根底にあるべきものだとわたしは信じています。

時の初めから,天の御父はこの事柄について非常に明確に語ってこられました。あるときは次のように穏やかにお求めになっています。「あなたはわたしを愛するならば,……貧しい者を思い起こし,……彼らの扶養のためにあなたの財産のうちから奉献するであろう。」1 またあるときは率直にお命じになっています。「貧しい者と乏しい者,病気の者と苦しんでいる者を,すべてのことにおいて思い起こしなさい。これらのことを行わない者は,わたしの弟子ではないからである。」2 そしてあるときは強い調子で警告しておられます。「わたしの造った豊かなものの中から取りながら,わたしの福音の律法に従って貧しい者や乏しい者に物を分け与えることをしない者は,悪人とともに,地獄で苦しみながら見上げるであろう。」3

物質的なことと霊的なことは結びついている

神と隣人を愛するという二つの大切な戒めは,物質的なことと霊的なことが結合したものです。この二つの戒めが「最も大切な」戒めと呼ばれているのは,ほかのすべての戒めがこの二つにかかっているからだという点に注意してください。4 つまり,わたしたち個人の,家族の,そして教会の優先事項の筆頭でなければならないものなのです。ほかの目標や行動はすべて,この二つの大切な戒めという泉から,すなわち神への愛と隣人への愛から湧き出るものなのです。

硬貨の表と裏のように,物質的なことと霊的なことは切り離せません。

すべての命を与えた御方はこう宣言しておられます。「わたしにとってはすべてが霊にかかわるものであり,わたしはいまだかつて,現世の律法をあなたがたに与えたことがない。」5 これはわたしにとって次のことを意味します。「霊的な生活とは,何よりもまず生活することである。単に知るべきものや研究するものではなく,生きるべきものである。」6

残念なことに,「物質的」なことをあまり重要でないと考えて見過ごす人がいます。霊的なことを大切にする一方で物質的なことを軽視するのです。思いを天に向けるのは大切ですが,同時に手を同胞に伸べていないとすれば,わたしたちは宗教の真髄をとらえ損ねています。

例えば,エノクは民の心を一つにし思いを一つにするという霊的な過程と,彼らの中に貧しい者がいないようにするという物質的な働きの両方によってシオンの社会を築きました。7

いつものように,わたしたちは完全な模範であるイエス・キリストに規範を求めることができます。J・ルーベン・クラーク管長は次のように教えています。「救い主は二つの大いなる使命を帯びて地上に来られました。一つはメシヤとしての役割を果たし,堕落に対する贖しょく罪ざいを成し遂げ,律法を成就することでした。もう一つは,主が肉体を持つ兄弟姉妹の間で行われた,彼らを苦しみから解放する業でした。」8

同じように,わたしたちの霊的な進歩は,人に対して行う物質的な奉仕と不可分のものとして結びついています。

一方が他方を補って完全なものとします。一方だけで他方がないのは神の幸福の計画を模した偽物です。

主の方法

世の中には貧しい人や助けの必要な人の差し迫った必要を満たそうと至る所で努力している,善良な人々や団体がたくさん存在します。わたしたちはこのことに感謝していますが,助けの必要な人を世話するための主の方法は世の方法とは異なります。主は「わたし自身の方法で行われなければならない」とおっしゃっています。9 主はわたしたちの目先の必要だけでなく,永遠の進歩に関心を寄せておられます。そのような理由から,主の方法には貧しい人の世話に加えて,自立と隣人への奉仕が常に含まれてきました。

1941年,アリゾナ州でヒーラ川が氾はん濫らんし,ダンカン渓谷が洪水に見舞われました。スペンサー・W・キンボールという名前の若いステーク会長は顧問たちと会合を持ち,被害を見極め,ソルトレーク・シティーに多額の資金援助を求める電報を打ちました。

ヒーバー・J・グラント大管長は,資金を送る代わりに3人の男性を送りました。ヘンリー・D・モイル,マリオン・G・ロムニー,そしてハロルド・B・リーです。彼らはキンボール会長のもとを訪れ,大切なことを教えました。「これは要求するプログラムではありません。自立するプログラムなのです。」

何年も後にキンボール会長は次のように述べています。「幹部の兄弟たちにとってわたしたちに〔資金を〕送るのは容易なことだったと思います。わたしの事務所で座って資金を分配するのもそう大変ではなかったでしょう。しかし,何百人もの〔地元の会員〕がダンカンへ赴き,彼ら自身で柵を作り,干し草を運び,土地をならし,必要なことをすべて行ったとき,非常に多くの良いものを得ました。それが自立です。」10

主の方法に従うことによって,キンボール会長のステークの会員たちは目先の必要を満たしただけでなく,仕え合いながら自立を養い,苦しみを和らげ,愛と一致を深めたのです。

わたしたちは皆,協力を求められている

今この瞬間にも,苦しんでいる教会員が大勢います。空腹で,経済的に困窮し,あらゆる種類の身体的,情緒的,霊的な苦しみや悩みと闘っています。助けを求め,救済を求めて,全精力を傾けて祈っています。

兄弟の皆さん,これはほかの人の責務だと思わないでください。これはわたしの責務であり,皆さんの責務です。わたしたちは皆,協力を求められています。「皆」とは全員を,すなわち物持ちでも貧しくても,あらゆる国のすべてのアロン神権者とメルキゼデク神権者を意味しています。主の計画においては,すべての人に何か貢献できることがあるのです。11

わたしたちが代々学んでいる教訓は,物持ちも貧しい人も皆が同じように隣人を助ける神聖な義務を負っているということです。福祉と自立の原則をうまく実践するには,皆がともに働く必要があるのです。

わたしたちは周りの人の必要に気づきながらも,だれか遠くの人が魔法のように現れてそれを満たしてくれるのを願うことが実に頻繁にあります。特殊な知識を持つ専門家が特定の問題を解決してくれるのを待っているのかもしれません。そのようにするとき,わたしたちは自分が提供できるものを隣人に渡さず,また自分自身から奉仕の機会を奪っていることになります。専門家に何も悪いところはないのですが,現実を見詰めましょう。つまり,すべての問題を解決してもらえるほど十分な人数の専門家がそろうことは決してないのです。その代わりに,主は世界中で,神権者とその組織を用意してくださっています。そしてその傍らに,扶助協会を用意してくださっています。神権者が知っているとおり,姉妹の驚くべき賜物と才能を生かせなければ,いかなる福祉活動も成功しません。

主の方法は,川辺に腰を下ろし,水が流れ去るまで渡るのを待つことではありません。ともに集まり,袖をまくって仕事に取りかかり,試練という川を渡るために橋を架けたり船を作ったりすることです。シオンの男性であり神権者である皆さんこそ,霊感を受けた福祉プログラムの原則を実践することによって,進み出て聖徒を助けられる人たちです。皆さんの使命は,目を開けて,神権を用いて,主の方法で仕事に取りかかることです。

地上で最も大いなる組織

世界大恐慌の間,ハロルド・B・リーは当時蔓まん延えんしていたひどい貧困や憂い,飢えに対処する方法を見いだそうと懸命に努力していました。そしてこの件について主に尋ねました。「この状況に対処するために……どのような組織が必要でしょうか。」

すると「まるで主が〔彼に〕次のようにおっしゃったかのようでした。『息子よ,見なさい。あなたにはほかにどのような組織も必要ない。わたしは地の面おもてで最も大いなる組織をあなたに与えている。神権組織よりも大いなるものはない。あなたのなすべきことは,神権を用いて業を成し遂げることである。それだけである。』」12

わたしたちの時代においても,そこが出発点です。すでに主の組織が設けられています。わたしたちの仕事はそれをどのように用いるかを決めることです。

まずなすべきことは,主がすでに明らかにしておられる事柄に精通することです。自分は知っていると思うべきではありません。幼子のような謙遜さをもって福祉の業に取り組む必要があります。助けの必要な人を世話するための主の方法の土台となる教義を,すべての世代が改めて学ばなければなりません。長年にわたって多くの預言者が教えてきたように,教会の福祉の原則は単なる良いアイデアではありません。神が明らかにされた真理であり,困っている人を助けるための主の方法なのです。

兄弟の皆さん,最初に,明らかにされている原則と教義を研究してください。教会の福祉に関する手引きを読んでください。13 インターネットウェブサイトprovidentliving.orgを活用してください。『リアホナ』2011年6月号に掲載された教会の福祉計画に関する記事を読み返してください。主の聖徒たちに必要なものを与えるための主の方法を知ってください。助けの必要な人を世話し,隣人に奉仕し,自立するという原則がどのような形で補い合うかを学んでください。自立するための主の方法には,教育,健康,職業,家計管理,霊的な力など,生活の様々な側面がバランスよく含まれています。現代の福祉プログラムに精通してください。14

教会の福祉の教義と原則を研究したら,学んだことをあなたが管理する義務を負っている人々の必要に当てはめるように努めてください。つまりたいていの場合,その方法を自分で見いだしていかなければならないということです。どの家族も,どの会衆も,世界のどの地域も,皆それぞれ異なっています。教会の福祉においては,すべてに当てはまるような答えはありません。これは,個個人が自分自身で責任をもって自立していくための自立プログラムなのです。 自立へと向かう助けとして,個人の祈り,神から与えられた自分の才能や能力, 家族や親戚からの資産,地域社会におけるさまざまなリソースが挙げられます。 言うまでもなく,神権定員会や扶助協会の愛あるサポートも受けられるでしょう。自立するための霊感された規範へとわたしたちを導いてくれるのです。

皆さんは主の教義と一致し自分の地域の状況に合った計画を立てなければならないでしょう。神の福祉の原則を実践するために,常にソルトレーク・シティーに目を向ける必要はありません。そうではなく,手引きと,皆さんの心と,天に目を向ける必要があります。主の霊感を信頼し,主の方法に従ってください。

結局のところ,皆さんは自分の地域で,キリストの弟子たちがあらゆる神権時代に行ってきたことを行わなければなりません。すなわち,ともに話し合い,利用できるあらゆる手段を使い,聖霊の導きを求め,主に確認を求め,その後,袖をまくって仕事に取りかかるのです。

もしこの規範に従うなら,主の方法でだれを,何について,いつ,どこで助ければよいか具体的な導きを受けられると約束します。

主の方法で助けることがもたらす祝福

教会の福祉すなわち,主の方法で助けることに関する預言者の約束と祝福は,主が御自分の子供たちに宣言しておられる中で最もすばらしい崇高なものです。「飢えた者にあなたのパンを施し,苦しむ者の願いを満ち足らせるならば,あなたの光は暗きに輝き,あなたのやみは真昼のようになる。主は常にあなたを導〔か〕れる。」15

物持ちでも貧しくても,どこに住んでいようとも,わたしたちは皆,互いを必要としています。自分の時間,才能,手段をささげることによって,わたしたちの霊は成熟し,精錬されるからです。

主の方法で助けるというこの業は,教会のリストに載っている,数あるプログラムの一つではありません。なおざりにできず,無視できないものです。わたしたちの教義の中心を成すものであり,宗教の真髄なのです。兄弟の皆さん,神権者であるわたしたちには,神権を用いて業を成し遂げるという大いなる特権があります。より自立すること,助けの必要な人をもっとよく世話すること,思いやりに満ちた奉仕を行うことから心や顔を背けてはいけません。

物質的なことは霊的なことと結びついています。神はこの現世での経験とその中で直面する物質的な問題を,わたしたちが成長して天の御父の望まれるような人物になるための実習の場として与えておられます。主の方法に従い主の方法で助けるという大いなる義務と,それによってもたらされる大いなる祝福をわたしたちが理解するよう,イエス・キリストの御名によって祈ります,アーメン。

  1. 教義と聖約42:29,30

  2. 教義と聖約52:40

  3. 教義と聖約104:18

  4. マタイ22:36-40参照

  5. 教義と聖約29:34

  6. トーマス・マートン,Thoughts in Solitude(1956年),46

  7. モーセ7:18

  8. J・ルーベン・クラーク・ジュニア,Conference Report,1937年4月,22

  9. 教義と聖約104:16;15節も参照

  10. スペンサー・W・キンボール,Conference Report,1974年,4月,183,184

  11. モーサヤ4:2618:27も参照。

  12. ハロルド・B・リー,福祉農業集会における説教,1970年10月3日,20

  13. 『手引き 第1部-ステーク会長とビショップ』第5章「教会福祉の管理」;『手引き第2部-教会の管理運営』第6章「福祉の原則と指導」;『主の道にかないて助けをなす福祉に関する指導者用ガイド』(冊子,2009年)参照

  14. グレン・L・ラッド長老の著書,Pure Religion: The Story of Church Welfare since 1930(教会配送サービスより入手可能)は,主の福祉プログラムの教義と歴史を研究するのによい

  15. イザヤ58:10-117-9節も参照