1 さて,ラモーナイ王は僕たちを前に立たせ,その事件について見たことをすべて証言させた。
2 そして,彼らが皆自分たちの見たことを証言したので,王はアンモンが忠実に自分の家畜の群れを守ったことと,また彼を殺そうとした者たちと戦ったときに大いなる力を振るったことを知った。そして王は非常に驚いて,「確かに,その人は人間以上の人である。見よ,彼は,この民が行う殺人の罪のために重い罰を下す,あの大霊ではないだろうか」と言った。
3 すると,彼らは王に答えて言った。「彼が大霊か,それとも人間か,わたしどもには分かりません。しかし,彼は王様の敵に殺されるような人ではなく,また技量と大きな力があるので,わたしたちと一緒にいるときには敵も王様の群れを追い散らせないということだけは,わたしどもにも分かります。わたしどもは,彼が王様の味方であることを知っています。王様,ただの人間にこのような大きな力があるとは思えません。彼はほかの者に殺されるような人ではないことを,わたしどもは知っているからです。」
4 すると王は,これらの言葉を聞いて彼らに言った。「わたしにはその人が大霊であることが分かる。わたしは前におまえたちの仲間を殺したが,それと同じようにおまえたちを殺すことのないよう,その人はおまえたちの命を守るために降って来たのだ。その人は我らの先祖が語っていた大霊だ。」
5 このように,大霊が実在するということは,ラモーナイが彼の父から受けた言い伝えであった。そして彼らは,大霊を信じていたにもかかわらず,自分たちの行うことはすべて正しいと思っていた。しかしラモーナイは,僕たちを殺したことで自分が間違いを犯したのではないかという恐れを抱き,非常に心配になってきた。
6 僕たちが水のある場所で同胞によって家畜の群れを追い散らされたことで,王は大勢の僕を殺していたからである。このように,僕たちは家畜を散らされたために殺されていた。
7 さて,これらのレーマン人たちは,いつもセブスの泉のそばに立っていて,民の家畜の群れを追い散らしていた。そして,散った家畜をたくさん自分たちの地へ追い立てて行くのである。これが彼らの略奪の手口であった。
8 さて,ラモーナイ王は僕たちに,「そのような大きな力のあるその人はどこにいるか」と尋ねた。
9 すると彼らは,「まことに,王様の馬にえさをやっています」と答えた。王は僕たちに,王の馬と馬車を用意してニーファイの地へ案内して行くようにと,彼らが群れに水を飲ませに行く前に命じておいたのである。全地を治める王であるラモーナイの父が,ニーファイの地で盛大な宴会を催すことになっていたからである。
10 さて,ラモーナイ王は,アンモンが王の馬と馬車の用意をしていると聞いて,アンモンの忠義にますます驚いて言った。「まことにわたしの僕の中にいまだかつてこの人のように忠実な者はいなかった。この人はわたしの命じたことをよく覚えていて,すべてそれを行う。
11 わたしにはこの人が大霊であることが確かに分かる。わたしのところに来てもらいたいと思ってはいるが,わたしにはその勇気がない。」
12 さて,アンモンは王と僕たちのために馬と馬車の用意を終えると,王のもとに入って来た。しかし,王の顔色が変わったのを見て,彼は王の前を立ち去ろうとした。
13 そのとき,王の僕の一人が彼に,「ラバナ」と言った。ラバナとは勢力のある王,すなわち大王という意味である。彼らの王は皆,勢力があると考えられていたのである。このように王の僕の一人が彼に,「ラバナ,王様はあなたがいてくださることを願っておいでです」と言った。
14 そこでアンモンは,王に向き直って,「王様,わたしが何をすることをお望みでしょうか」と尋ねた。ところが王は,何と言ってよいか分からなかったので,彼らの時間で一時間,アンモンに返答しなかった。
15 そこで,アンモンはもう一度王に,「わたしに何をお望みですか」と尋ねたが,この度も返答がなかった。
16 さて,アンモンは神の御霊に満たされ,王の思いを見抜いて言った。「王様は,わたしが王様の僕たちと家畜の群れを守って,石投げと剣で同国人を七人殺し,また王様の家畜の群れと僕たちを守るために,ほかの者たちの腕を切り落としたと聞いて,まことに,そのことで驚いておられるのですか。
17 王様に申し上げますが,王様はどうしてそんなに驚いておられるのですか。まことに,わたしはただの人間であって,王様の僕です。ですから,わたしは王様がお望みになることで正しいことは何でもいたします。」
18 王はその言葉を聞くと,アンモンが自分の思いを見抜くことができたのを知って,またもや驚いた。しかし,それでもラモーナイ王は口を開き,「おまえはだれなのだ。すべての物事を知っているあの大霊か」と尋ねた。
19 アンモンは王に答えて,「そうではありません」と言った。
20 すると,王は言った。「どうしてわたしの心の思いが分かるのか。はっきりと言ってよい。わたしに話しなさい。わたしの家畜の群れを追い散らす同国人を殺したり,その腕を切り落としたりしたのは何の力によったのかも,わたしに話してくれ。
21 おまえがもし,これらのことをわたしに話してくれるなら,何でも望むものをやろう。必要であれば,軍隊でおまえを守ろう。しかし,おまえがわたしの全軍よりも強いことを,わたしは知っている。それでも,おまえがわたしに望むものは何でもやろう。」
22 アンモンは賢いけれども素直な人であったので,ラモーナイ王にこう言った。「もしわたしが何の力によってこれらのことを行ったか申し上げれば,王様はわたしの言葉をお聞きくださいますか。わたしが王様に望むのはそのことです。」
23 すると王は,彼に答えて,「分かった。わたしはおまえの言葉をすべて信じよう」と言った。このようにして,王は策に乗ったのである。
24 そこでアンモンは,王に大胆に語り始めて,「王様は神のましますことを信じますか」と尋ねた。
25 すると王は答えて,「わたしにはそれがどういう意味か分からない」と言った。
26 そこでアンモンは,「王様は大霊のましますことを信じますか」と尋ねた。
27 すると王は,「信じる」と答えた。
28 そこでアンモンは,「その大霊が神です」と言った。アンモンはまた王に,「王様は,神でましますこの大霊が天地にある万物を創造されたことを信じますか」と尋ねた。
29 すると王は,「信じる。わたしは神が地にある万物を創造されたことを信じる。しかし,わたしは天というものを知らない」と答えた。
30 そこで,アンモンは王に,「天とは,神と神のすべての聖なる天使が住んでおられる所です」と言った。
31 するとラモーナイ王は,「それは地の上の方にあるのか」と言った。
32 そこでアンモンは,「そのとおりです。そして,神はすべての人の子らを見下ろしておられます。また,人の子らはすべて初めから神の御手によって造られたので,神はその心の思いと志をすべて御存じです」と言った。
33 するとラモーナイ王は,「わたしはあなたの語ったこれらのことをすべて信じよう。あなたは神から遣わされたのか」と言った。
34 アンモンは王に言った。「わたしはただの人間です。人は初めに神の形に造られました。わたしはこの民にこれらのことを教えて,正しい真実のことを知らせるために,神の聖なる御霊によって召されています。
35 そして,その御霊の一部がわたしの内にとどまっていて,神に対するわたしの信仰と望みに応じて,理解と力を与えてくれるのです。」
36 さて,アンモンはこれらの言葉を述べてから,世界の創造とアダムの造られたことから始めて,人の堕落に関する一切のことを告げ,また預言者たちが語ってきたことを,自分たちの先祖リーハイがエルサレムを去った当時に至るまで語り,その民の記録と聖文を王の前に置いた。
37 アンモンはまた彼ら(王と王の僕たち)に,自分たちの先祖が荒れ野を旅したことと,彼らが飢えや渇きに苦しんだこと,彼らの労苦など,すべてのことを語った。
38 また彼は,レーマンとレムエルとイシマエルの息子たちの反抗についても彼らに語った。まことに,彼は彼らの反抗についてすべて話した。そして彼は,リーハイがエルサレムを去ったときからその時点までのすべての記録と聖文について,彼らに説き明かしたのである。
39 しかも,それだけではなかった。彼は世の初めから備えられていた贖いの計画についても彼らに説き明かし,またキリストの来臨についても彼らに知らせ,主のすべての業について彼らに明らかにしたのである。
40 さて,アンモンがこれらのことをすべて述べ,王にそれを説き明かしたところ,王は彼の言葉をすべて信じた。
41 そして王は主に向かって,「おお,主よ,憐れみをおかけください。あなたがこれまでニーファイの民に示してこられた深い憐れみにより,わたしとわたしの民にも憐れみをおかけください」と叫び求めた。
42 そして,王はそのように言うと,地に倒れて死んだようになった。
43 そこで王の僕たちは,王を王妃のもとに運んで行き,床の上に横たえた。王は二日二晩まるで死んだように横たわっていた。また,王妃と王の息子たちと娘たちは,王を亡くしたことを深く悲しみ,レーマン人の習わしに従って王の喪に服した。