1 さて見よ,わたしはあなたがたに,彼らが国を治める王を立てなかったことを示そう。この年,すなわち第三十年に,彼らはさばきつかさの席に着いていた国の大さばきつかさを殺した。
2 そして,民は互いに分裂し,家族と親族と友人ごとにそれぞれ部族に分かれた。このようにして,彼らは国の政府を滅ぼした。
3 そして各部族は,彼らを治める族長や指導者を任命した。このようにして,彼らは部族の者となり,部族の指導者となった。
4 さて見よ,彼らの中には家族や親族や友人が大勢いない者はだれ一人いなかったので,彼らの部族は非常に大きなものとなった。
5 さて,このようなことがすべて行われたが,彼らの中にはまだ戦争はなかった。この罪悪はすべて,民がサタンの力に身をゆだねたために民に及んだのであった。
6 また,預言者たちを殺した者の友人や親族から成る秘密結社のために,政府の条例は損なわれてしまった。
7 また,彼らがその地にひどい争いを引き起こしたので,民の中でひときわ義にかなった者たちも,ほとんど皆すでに悪くなってしまい,まことに,民の中に義人はほんのわずかになった。
8 このようにして六年たたないうちに,民の大半は,自分の吐いたものに帰る犬のように,あるいは泥の中に転がる豚のように,義に背いてしまった。
9 さて,このようなひどい罪悪を民にもたらしたこの秘密結社の者たちは,ともに集まり,ヤコブと呼ばれた一人の男を自分たちの頭に立てた。
10 そして,彼らはヤコブを自分たちの王と呼び,彼はこの邪悪な団を治める王となった。預言者たちはイエスについて証をしたが,この男は,その預言者たちに敵対する声を上げた首謀者の一人である。
11 さて,彼らは,同盟を結んだ民の部族ほど人数が多くなかった。民の部族は同盟していたが,彼らの法はそれぞれ部族ごとに指導者が定めていた。それでも彼らは,秘密結社に敵対していた。彼らは義を守る者たちではなかったにもかかわらず,政府を滅ぼす誓いを立てた者たちを憎むことでは一致していた。
12 したがって,ヤコブはその団の王であったので,敵が自分たちよりもはるかに多いのを見ると,自分の民に,その地の最北部へ逃げて行き,そこで王国を築いて離反者を加え(彼は多くの離反者が出るように民にへつらっていた),民の部族と戦うのに十分な力を蓄えるようにと命じた。そして,彼らはそのようにした。
13 彼らの移動は非常に速かったので,妨げられることなく,民の手の届かない所へ行ってしまった。このようにして第三十年が終わった。ニーファイの民の状況はこのようであった。
14 さて,第三十一年に,民は家族と親族と友人ごとに部族に分かれていた。それでも彼らは,互いに戦争をしないという取り決めを結んでいた。ところが,彼らの法や統治方法は,彼らの族長と指導者の思いのままに定められていたので,一致していなかった。しかし彼らは,部族がほかの部族を侵害してはならないという,非常に厳しい法を定めていたので,ある程度地は平和であった。にもかかわらず,彼らの心は主なる神からそれていた。そして彼らは,預言者たちに石を投げつけ,預言者たちを自分たちの中から追い出した。
15 さて,ニーファイは天使の訪れを受け,主の声も聞き,天使を見て見証者となり,キリストの務めについて知る力を与えられ,また民が義から悪事と忌まわしい行いに早々と戻ったことを目撃した。
16 したがって,彼は民の心がかたくなで,思いをくらませていることを悲しく思い,その年に民の中に出て行って,悔い改めと,主イエス・キリストを信じる信仰による罪の赦しについて大胆に証し始めた。
17 彼は多くのことを民に教えたが,それを全部書き記すことはできない。また,一部では不十分であるから,この書には書き記さない。ニーファイは,力と大きな権能をもって教えた。
18 そこで民は,彼が自分たちよりも大きな力を持っていたので,彼に腹を立てた。主イエス・キリストを信じる彼の信仰が非常に深かったので,天使が日々彼に仕え,そのため彼らは,彼の言葉を信じないわけにはいかなかったからである。
19 また彼は,イエスの名によって悪霊と汚れた霊を追い出し,また,民に石を投げつけられて殺された自分の兄弟を,死者の中からよみがえらせた。
20 民はそれを目にし,目撃し,彼に力があることで腹を立てた。また彼は,民の目の前でイエスの名によってさらに多くの奇跡を行った。
21 そして第三十一年が過ぎ去った。そして,主に帰依した者はごくわずかであったが,心を改めた者は皆,自分たちが信じているイエス・キリストの内にある神の力と御霊を与えられたことを,民に実際に示した。
22 悪霊を追い出された者,病気や肉体の弱さを癒された者は皆,神の御霊の働きを受けて癒されたことを民に実際に告げた。また彼らは,数々のしるしを示し,民の中で多少の奇跡を行った。
23 このようにして,第三十二年も過ぎ去った。第三十三年の初めに,ニーファイは民に叫び,悔い改めと罪の赦しを宣べ伝えた。
24 ところで,悔い改めに導かれた者で水でバプテスマを受けなかった者は一人もいなかったことも,覚えておいてもらいたい。
25 したがってニーファイは,人々をこの務めに聖任した。彼らのもとに来る人々がすべて水でバプテスマを受けられるようにするためであった。このバプテスマは,これを受ける人々が悔い改めて罪の赦しを受けたことを,神の前に,また民に対して立証し,証するものである。
26 この年の初めに,悔い改めのためのバプテスマを受けた人々が多くいた。このようにして,その年の大半が過ぎ去った。