1 さて,第二十六年に,ニーファイ人の民は皆各々の家族を伴い,大小の家畜の群れ,馬,牛を連れ,持ち物をすべて携えて自分の土地へ帰って行った。
2 そして彼らは,食糧を食べ尽くしていなかったので,残っているあらゆる穀物を,また金銀やすべての貴重な品々を携えて,南北に分かれ,北方の地と南方の地のそれぞれの所有地に帰って行った。
3 また,国の平和を守ると聖約を交わし,引き続きレーマン人でいたいと望んだ強盗たちには,自分の労働で生きていくことができるように,彼らの人数に応じて土地が与えられた。このようにして,彼らは全地に平和を確立した。
4 そして,彼らは再び栄えて富み始めた。第二十六年,第二十七年が過ぎ去り,国の秩序はしっかり保たれていた。また彼らは,公平かつ公正に法律を制定した。
5 民が戒めに背くことさえなければ,彼らが引き続き栄えるのを妨げるものは全地に何一つなかった。
6 国にこの大いなる平和を確立した人々は,ギドギドーナイと,大さばきつかさのラコーニアスと,指導者に任命された人々である。
7 そして,多くの町が新たに築かれ,多くの古い町が改築され,
8 町から町へ,地方から地方へ,地域から地域へと通じる多くの街道が造られ,多くの道路が建設された。
9 このようにして,第二十八年が過ぎ去り,民は引き続き平和を保っていた。
10 ところが第二十九年に,民の中に多少の分裂が起こった。そして,ある者たちは非常に豊かに富んでいたために高慢になって誇り,ひどい迫害さえ加えるようになった。
11 国には多くの商人がおり,また多くの法律家と役人もいた。
12 そして民は,彼らの富と学問の機会の多少に応じて階級に区別され始めた。まことに,貧しいために無学な者もいれば,富んでいたので大いに教育を受けた者もいた。
13 高慢になった者もいれば,非常に謙遜な者もいた。そしる者にそしり返す者もいれば,そしりや迫害やあらゆる苦難を受けながらも,向き直ってののしり返すことをせず,神の前にへりくだって悔いる者もいた。
14 このように,全地にひどい不平等が生じたために,教会が分裂し始めた。まことに第三十年には,真実の信仰に帰依している少数のレーマン人の中の教会を除いて,全地の教会が分裂してしまった。この少数のレーマン人は堅く確固として動かず,喜んで力の限り主の戒めを守っていたので,真実の信仰から離れようとしなかった。
15 ところで,民のこの罪悪の原因は,あらゆる罪悪を行うように民をそそのかし,民を誇らせて高慢にし,民を誘惑して権力と権威,富,俗世のむなしいものを求めさせる大きな力をサタンが持っていたことである。
16 このように,サタンがあらゆる罪悪を行うように民の心を惑わしたため,民が平和を享受したのはほんの数年にすぎなかった。
17 したがって,第三十年の初めには,民はすでに悪魔の手に引き渡されて久しくたっており,悪魔が行かせたいと思う所へはどこへでも誘いに乗って行き,また悪魔が行わせたいと思う罪悪はどんなことでもするようになっていた。そのためにこの第三十年の初めには,彼らは恐ろしい邪悪な状態にあった。
18 彼らは無知で罪を犯したのではない。自分たちに関する神の御心を教えられて知っていた。したがって,彼らは故意に神に背いたのである。
19 それはラコーニアスの息子ラコーニアスの時代のことである。このラコーニアスはその年に父の職に就いて民を治めたのであった。
20 また,何人もの人々が天から霊感を受け,遣わされて,全地の民の中に立って教えを説き,民の罪と不義について大胆に証言し,また主が御自分の民のために行われる贖い,言い換えれば,キリストの復活に関して彼らに証した。さらに彼らは,キリストの死と苦しみについても大胆に証した。
21 ところが,民の中には,これらのことについて証した人々のことを非常に怒る者が多かった。このように怒った者たちは,特に大さばきつかさたちと,かつて大祭司や法律家を務めた者たちであった。まことに,当時法律家であった者も皆,これらのことを証した人々のことを怒った。
22 しかし,法律家もさばきつかさも大祭司も,国の総督が宣言書に署名しないかぎり,だれに対しても死刑を宣告する力を持たなかった。
23 ところが,キリストに関することについて大胆に証した人々の多くが,さばきつかさたちによって捕らえられ,ひそかに殺されてしまった。そのため,国の総督が彼らの死について知ったのは,彼らが死んだ後のことであった。
24 さて見よ,このことは,国の総督から権限を受けないかぎり人を死刑にしてはならないという国の法律に反していた。
25 そこで,法律に背いて主の預言者たちに死刑を宣告したこれらのさばきつかさたちに対して,ゼラヘムラの地にいた国の総督への訴えが起こされた。
26 そして,彼らは捕らえられ,大さばきつかさの前に連れ出されて,犯した罪悪を,民によって定められた法律に従って裁かれることになった。
27 さて,それらのさばきつかさたちには多くの友人と親族がいた。また,ほかの者たち,すなわち法律家たちと大祭司たちもほとんど全員が集まり,法律によって裁判されることになったそれらのさばきつかさたちの親族と結束した。
28 そして,彼らは互いに誓いを立てた。すなわち,あらゆる義に敵対して結束するために,昔の人々によって設けられたあの誓い,悪魔によって与えられ実施された誓いを立てたのである。
29 このために彼らは,主の民に敵対して結束し,主の民を滅ぼすという誓いを立て,また殺人罪を犯した者たちを,法律に従って実施されようとしている罰の執行から救い出すという誓いも立てた。
30 そして,彼らは国の法律と権利に反抗した。また彼らは総督を殺し,国を治める王を立て,国をもはや自由な国ではなく,王の支配を受ける所にしようと互いに誓いを立てた。