1 さて,わたしたちは,すべての種類の種,すなわちあらゆる穀物の種とあらゆる果物の種を集めておいた。
2 さて,父は,荒れ野にとどまっていたときに,わたしたちに次のように言った。「見よ,わたしは夢を見た。別の言葉で言えば,示現を見た。
3 そして見よ,わたしは,自分が見たことのために,ニーファイとサムについては主にあって喜ばずにはいられない。彼らとその子孫の多くは救われると思うからである。
4 しかし見よ,レーマンとレムエルよ,わたしはあなたがたについて非常に心配している。見よ,わたしは夢の中でひどく暗くて寂しい荒れ野を見たように思う。
5 そして,わたしは一人の男の人を見た。その人は白い衣を着ていて,わたしの方に来て,わたしの前に立った。
6 そして,その人はわたしに言葉をかけて,後について来るように言った。
7 そこでついて行くと,わたしは自分が暗くて寂しい荒れ野にいることが分かった。
8 そして暗闇の中を長い間進んだところで,わたしは,主がその豊かな深い憐れみによってわたしを憐れんでくださるように,主に祈り始めた。
9 そして主に祈り終えると,大きく広々とした野原が見えた。
10 そして,一本の木が見えたが,その実は人を幸せにする好ましいものであった。
11 そこで,行ってその木の実を食べると,それは,今までに味わったどんな実よりもずっと甘いことが分かった。またその木の実は白く,今までに見たどんな白いものにも勝って白かった。
12 そしてその木の実を食べると,わたしの心は非常に大きな喜びに満たされた。それでわたしは,家族にも食べてほしいと思い始めた。その実が,ほかのどんな実よりも好ましいことが分かったからである。
13 それで,自分の家族もいるのではないかと辺りに目をやると,水の流れている川が見えた。それは,わたしが実を取って食べた,あの木のそばを流れていた。
14 その川がどこから来るのかと眺めると,少し離れた所に川の源があった。そして,その源の所にあなたがたの母サライアとサムとニーファイがいるのが見えたが,彼らは,どちらへ行ったらよいか迷っているかのように立っていた。
15 そこでわたしは手招きをして,わたしのところに来て,ほかのどんな実よりも好ましいその実を食べるように,大声で言った。
16 そこで彼らは,わたしのところにやって来て,その実を食べた。
17 さて,わたしは,レーマンとレムエルもここに来て,その実を食べてほしいと思った。それで,二人の姿が見えはしないかと,川の源の方へ目をやった。
18 そして二人が見えたが,二人はわたしのところに来てその実を食べようとはしなかった。
19 それから,一本の鉄の棒が見えた。それは川の岸に沿ってずっと延び,わたしの立っているそばの木の所まで達していた。
20 また一本の細くて狭い道も見えた。その道はこの鉄の棒に沿い,わたしの立っているそばの木の所まで来ていた。その道はまた,流れの源のそばを通り,まるで一つの世界かと思われるような,大きく広々とした野原に通じていた。
21 わたしは群れ集まる無数の人々を見たが,その中の多くは,わたしの立っているそばの木の所に通じる道にたどり着こうとして,押し進んでいた。
22 そして,その人たちは進んで来ると,木に通じている道を歩き始めた。
23 そこで,暗黒の霧が起こった。まことに,非常に深い暗黒の霧であったため,道を歩き始めていた人々は道を見失い,迷って姿が見えなくなってしまった。
24 そして,わたしはまた,押し進んで来るほかの人々を見たが,この人々は進んで来て,鉄の棒の端をつかんだ。そして彼らは,鉄の棒にすがりながら暗黒の霧の中を押し進み,ついに進んで来てその木の実を食べた。
25 そして彼らは,木の実を取って食べると,恥じるかのように辺りを見回した。
26 それでわたしも辺りを見回すと,水の流れている川の向こう側に,一つの大きく広々とした建物が見えた。それは地上に高くそびえ,ちょうど空中にあるかのように立っていた。
27 その建物は,老若男女を問わず人々でいっぱいであった。この人々の衣服の装いは,非常に華やかであった。そして彼らは,その木の所までやって来てその実を食べている人々を指さし,あざけり笑っている様子であった。
28 それでその木の所までやって来た人々は,その実を味わった後にあの人々にあざけり笑われたので恥ずかしく思い,禁じられた道に踏み込んで姿が見えなくなってしまった。」
29 ところで,わたしニーファイは,父の言葉をすべて述べることはしない。
30 しかし,手短に記すと,見よ,父は,このほかに大勢の人が押し進んで来るのを見た。この人々は進んで来て,鉄の棒の端をつかんだ。そして彼らは,しっかり鉄の棒につかまりながら道を押し進み,ついにやって来ると,ひれ伏して木の実を食べた。
31 父はまた,ほかに大勢の人が,大きく広々とした建物の方へ道を探りながら進んでいるのを見た。
32 そしてまた,多くの人が,流れの深みにおぼれて死に,また多くの人が,見知らぬ道に迷って父の視界から消えてしまった。
33 「あの奇妙な建物の中に入った人々の数は非常に多かった。彼らはその建物に入ると,わたしやほかにその実を食べていた人々を指さしてあざけり笑った。しかしわたしたちは,彼らのことを気に留めなかった。」
34 これらはわたしの父の言葉である。「それは,これらの人々を気に留めた者は皆,道を外れてしまったからである。」
35 そして父は,「レーマンとレムエルはその実を食べなかった」と言った。
36 さて,父の見た夢,すなわち示現についての話は多かった。父はこれらについてすべて語り終えてから,わたしたちに向かい,その示現の中で見たことのためにレーマンとレムエルのことを非常に心配していると言った。まことに,父は二人が主の前から捨てられはしないか心配であると言った。
37 また父は,優しい親の情を込めて,父の言葉に聞き従うように,そうすれば恐らく主は憐れみを示し,追い出すようなことはなさらないだろうと彼らに勧めた。このように,父は彼らに説き聞かせたのである。
38 父はこの二人に説き聞かせ,また多くの事柄を預言した後,主の命令を守るように告げて,彼らに語るのをやめた。