1 さて,わたしニーファイが兄たちに語り終えると,見よ,兄たちは,「おまえは我々が聞くに堪えないほど厳しいことを言った」とわたしに言った。
2 そこでわたしは兄たちに,真理に従い,悪人にとって厳しいことを言ったのはよく承知していると話した。わたしは義人を義とし,彼らが終わりの日に高く上げられることを証した。そのために,罪のある者は真理が胸の底まで刺し貫くので,真理を厳しいものと思うのである。
3 「兄さんたち,もし兄さんたちが義にかなっていて,神の御前をまっすぐに歩めるように,進んで真理に聞き従い,それを心に留めるならば,その真理のためにつぶやいて,『おまえは我々に厳しいことを言った』などとは言わないでしょう。」
4 そして,わたしニーファイは兄たちに,主の戒めを守るように力の限り勧めた。
5 そこで,兄たちが主の前にへりくだったので,わたしは兄たちが義の道を歩むようになることを喜び,またそのことに大きな希望を抱いた。
6 さて,以上のことはすべて,父がレムエルと名付けた谷で天幕に住んでいたときに語られ,また行われたことである。
7 さて,わたしニーファイは,イシマエルの娘の一人を妻にめとり,兄たちもまた,イシマエルの娘たちを妻にめとった。そしてゾーラムも,イシマエルの長女を妻にめとった。
8 このようにして,父は主から受けた戒めをことごとく果たし,またわたしニーファイも,主から非常に豊かな祝福を受けた。
9 さて,夜に,主の声が父に語りかけ,翌日に荒れ野へ旅立つように命じられた。
10 そこで,父が朝起きて天幕の入り口へ出て行ったところ,非常に驚いたことに,地の上に入念な造りの丸い球が一つあった。それは純良な真鍮でできていて,その球の内部には二本の指針があり,その一本は,わたしたちが荒れ野で進むべき方向を指していた。
11 そこでわたしたちは,荒れ野へ持って行くべき一切のものと,主が与えてくださった食糧の残りをことごとく集めた。また,荒れ野へ持って行くためあらゆる種を携えた。
12 そしてわたしたちは天幕を持ち,レーマン川を渡って荒れ野へ出発した。
13 そして,わたしたちは四日間,ほぼ南南東の方角へ旅路を進み,再び天幕を張ってその地をシェザーと名付けた。
14 そこでわたしたちは,弓矢を携え,家族の食糧にする獲物をとりに荒れ野へ出かけて行った。そして獲物をとると,荒れ野の家族のもとに,すなわちシェザーに帰って来た。そして,また前と同じ方角に,紅海に近い境の地の荒れ野の中で,最も肥沃な所をたどりながら進んで行った。
15 そしてわたしたちは,道々,弓矢や石,石投げで食糧にする獲物をとりながら幾日もの間旅をした。
16 そして,その球の指す方向へ進んで行ったが,それはわたしたちを荒れ野の中で,より肥沃な場所へ導いて行った。
17 わたしたちは,幾日もの間旅をしてからしばらく天幕を張り,体を休めて,家族の食糧にする獲物をとることにした。
18 そして,わたしニーファイは食糧にする獲物をとるために出て行ったが,見よ,純良な鋼でできているわたしの弓を折ってしまった。それで,弓を折ってからは,食糧を得ることができなかったので,見よ,兄たちは弓を使えなくしたことでわたしに大いに腹を立てた。
19 そこでわたしたちは,食糧がないままに家族のもとに帰ったが,家族の者は旅のためにひどく疲れていたので,食糧がないことで非常に苦しんだ。
20 そして,レーマンとレムエルとイシマエルの息子たちは,荒れ野での苦しみと苦難のためにひどくつぶやき始め,また父も主なる神に対してつぶやき始めた。彼らは皆,非常に嘆き悲しみ,主に対してつぶやいたのであった。
21 さて,わたしニーファイは,自分の弓を使えなくしたために兄たちから苦しめられたが,兄たちの弓も弾力がなくなったので事態はさらに深刻になり,まことにわたしたちは,食糧をまったく得ることができなかった。
22 そして兄たちが,主なる神に対して不平を言うほどまた心をかたくなにしたので,わたしニーファイは兄たちにたくさんのことを語った。
23 さて,わたしニーファイは木で一つの弓を作り,まっすぐな枝で一本の矢を作った。それでわたしは,弓と矢,石投げと石で身を固め,「食糧を得るのにどこへ行ったらよいですか」と父に尋ねた。
24 そこで父は主に尋ねた。わたしが精力を込めて,彼らにたくさんのことを語ったので,わたしが語った言葉で父も家族もすでにへりくだっていたからである。
25 さて,主の声が父に聞こえて,主に対してつぶやいたことでひどく懲らしめられたので,父は深い悲しみに沈んだ。
26 そこで,主の声が父に,「球を見て,記してあることをよく心に留めなさい」と言われた。
27 そこで父は,球の上に記してあることを見て非常に恐れおののき,また兄たちもイシマエルの息子たちも,わたしたちの妻も同様に恐れおののいた。
28 そこで,わたしニーファイが球の中にある指針を見ると,それらは,わたしたちがそれに寄せる信仰と熱意と注意力に応じて働いた。
29 また,それらの指針の上には新しい言葉が記されていて,それは読みやすく,主の道についてわたしたちに理解を与えてくれるものであった。そしてその言葉は,わたしたちが寄せる信仰と熱意に応じて,時々書き替えられた。このようにして,主は小さな手段によって大いなることを成し遂げられることが分かるのである。
30 さて,わたしニーファイは球の上に現れた指示に従って,山の頂まで登って行った。
31 そして,野の獣を何頭もとったので,家族のための食糧が手に入った。
32 そこでわたしは,とった獣を運んで天幕に帰った。すると,わたしが食糧を手に入れたのを見たときの家族の喜びようは,大変なものであった。それで彼らは,主の前にへりくだり,主に感謝した。
33 さて,わたしたちは再び旅路に就き,初めとほぼ同じ道筋を進んで行った。そして,幾日もの間旅をした後,しばらくとどまるためにまた天幕を張った。
34 そして,イシマエルが死んで,ネホムという所に葬られた。
35 さて,イシマエルの娘たちは,父を亡くしたため,また荒れ野の中の苦難のために非常に嘆き悲しんだ。そして彼女たちは,自分たちをエルサレムの地から連れ出したのはわたしの父であったことから,父に向かってこうつぶやいた。「父は死んでしまいました。わたしたちは長い間荒れ野をさまよい,多くの苦難に遭い,飢えと渇きと疲労に苦しんできました。このような苦しみに遭った末に,結局荒れ野の中で飢えて滅びてしまうに違いないのです。」
36 イシマエルの娘たちはこのように,父とわたしに対してつぶやき,エルサレムに帰ることを望んだ。
37 レーマンは,レムエルとイシマエルの息子たちに言った。「さあ,父と弟ニーファイを殺してしまおうではないか。ニーファイは兄である我々の支配者となり,我々を教える者になっている。
38 彼は主が自分に語られたと言い,また天使たちが仕えてくれたとも言っている。しかし見よ,我々には,彼が偽りを言っていることが分かっている。彼はそのようなことを言いながら,策略をもって多くのことをなし,我々の目をくらまして,恐らくどこか見知らぬ荒れ野に我々を誘い込めると思っているのだろう。そして我々を誘い込んでしまったら,彼は我々の王となり,支配者となって,意のまま,思いのままに振る舞おうと思っているのだ。」兄のレーマンは,このようにして彼らの心をあおり立てて怒らせた。
39 さて,主はわたしたちとともにおられ,まことに主の声が聞こえて彼らに多くの御言葉を語り,彼らをひどく懲らしめられた。彼らは主の声によって懲らしめを受けると,怒りを静め,罪を悔い改めた。そして,主が再び食糧を与えて祝福されたので,わたしたちは滅びずに済んだ。